花霞が消えるまで:完結

第六章 もう一度聴かせて

自分の目が信じられなかった。
目の前で頭を下げる姿が幻だと思った。
有り得ない、そう思い頭を振る俺の前には確かに存在を感じられる温もり。
「大鳥陸軍奉行からの辞令です。本日付けで、正式に土方陸軍奉行並付きの小姓として配属されました。」
「・・・何かの間違いだろう。そんな話は聞いてねぇ。」
微かに震えそうな唇を抑え、やっと紡ぎ出した言葉に少女、千鶴は黙って紙面を差し出した。
そこには確かに千鶴がたった今告げた内容が記載されている。
ご丁寧に大鳥の署名も赤々と記されて。
「持って帰れ。こんな辞令は認めねぇ。」
「困ります。私は正式に土方さんの小姓として任命されたんです。こうして辞令も・・・。」
俺は千鶴の手から辞令を奪い取ると、目の前で見せ付けるように破り捨てた。
だが、千鶴は泣きそうな顔を伏せる事もせずに俺を見返してくる。
「俺の命令が聞けねぇのか?」
「もう一度、貰って来ます。」
「無駄だ、何度来ても同じだ。俺は絶対に受け取らねぇ。」
「それでも、持ってきます。」




『もう一度聴かせて』

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