花霞が消えるまで:完結

第七章 離れない離せない

千鶴が俺の小姓になってから、俺の負担は驚く程軽くなっていた。
勤務に関する事だけでなく、精神的な事が原因だとは思う。
千鶴が傍にいるだけで酷く安心出来たし、何よりこいつの細やかな気遣いが俺を落ち着かせた。
「土方君、失礼するよ。」
軽いノックの後、返事もせずに入室した俺の上司は俺に声を掛けておきながら、まず千鶴へ笑顔を向けた。
「やぁ、おはよう雪村君。今朝も可愛いね。」
「大鳥さんよ、あんた俺に用があって来たんじゃねぇのか?」
「ああ、ついでに土方君もおはよう。いい朝だね。」
渋面を隠そうともしねぇ俺に向かって、大鳥さんは侘びれもせずに爽やかな朝の挨拶を告げる。
毎度の事ながら人を脱力させるのが上手い。
「どうぞ、粗茶ですが。」
「ありがとう、雪村君。いいなぁ、こんな可愛いお小姓さんなら僕も欲しいよ。」
「悪ぇな、大鳥さん。これは俺のだ。小姓が欲しいなら他を当たってくれ。ま、これ程のヤツァ、滅多にいねぇだろうがな。」
ニヤリと口の端だけ上げて笑うと、千鶴は真っ赤になって俯いて大鳥さんは呆気に取られたように口を開けてやがる。
「・・・参ったな。僕が土方君をからかうつもりだったのに、僕の方が中てられちゃったなぁ。そんな堂々と惚気なくってもいいじゃないか。」
「人で遊ぼうとするあんたが悪いんだよ。それで?朝っぱらから何の用だ?」
「ああ・・・。」
俺の言葉に顔を引き締めた大鳥さんは、新政府軍の動向について意見を求めて来たようだった。
内容に関しては概ね俺と同じ事を考えていたようで、一先ず春になるまでにこちらの戦力を整える方向で話し合った。
途中退出しようとする千鶴を「気にするな。」と引き止めて、俺達の話し合いは遅くまで続いた。


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