頂物:文

エネミーコンダクター:小酒井皆人様より:相互記念
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『閉じた世界』

「……別れたい?」
酷く傷付いた様子の千鶴君の言葉に、俺は今言われた言葉を繰り返した。
「…はい」
君は知らないかも知れないが、俺はもう君がいないと生きていけないのに、何故そんなことを言うんだ。
どうして、君は俺を捨てるんだ。俺はここまで、君を愛しているのに!そう叫びたかったのに、中途半端な理性がそれを制止した。
「……理由を、理由を聞いても構わないか。俺には……、聞く権利がある筈だ」
悲鳴にも似た叫びの代わりに俺の口が出した言葉は、自分でも驚くほど絶望に震え、泣きそうに擦れていた。
「……言えません」
泣きそうな声に、俺の方が泣きたいと言いたかった。
どうして俺を捨てる君が泣くんだ、泣くなら俺の方じゃないのか。
恨み言にも似た気持ちを彼女に言う訳にもいかず、俺はただ手を握り締めていた。
「では、質問を変えよう。俺のどこが気に食わないんだ」
すぐに直すから言ってくれ。俺は君がいてくれたら、それでいいんだ。
自分を変えることなど、君を失う痛みと比べたら大したことはない。だから、頼む。
「そんな!山崎先輩が気に食わないなんて有り得ません!!」
「それならっ!!」
千鶴君の肩に手を置いて、睨むように見詰める。千鶴君が怯えているが、俺には余裕なんてないんだ。
「それならどうして、俺と別れようなんて言うんだ!!」
直すようなところがないなら、嫌うところがないならどうして!俺は、千鶴君の肩を掴む手に力を込めた。
「私、先輩のことが好きなんです。好きで好きで…これ以上好きになると、もう先輩なしじゃ生きていけなくなりそうで……。それが、それが本当に…」
怖いんです、そう繰り返して、自分の身体を抱き締める千鶴君に、俺は言葉を失った。
「だからもう、終わりにしましょう?私から、もう自由になってくださ、いっ!?」
「千鶴君、君はそんな嬉しいことを言われて、俺が易々と君を手放すのだと、本気で思っているのか」
だったら、見当違いも甚だしいな。好きだから離れようなんて、俺からしたら愚行だ。好きなら、一緒にいればいいだろう。
「……俺はもう、君がいないと生きていけないんだ」
耳元で囁くように言えば、千鶴君は息を詰まらせて俺を見た。君が二度と俺から離れないよう、俺が誘惑してやろう。
「なあ千鶴君、俺と一緒に堕ちてくれ」

(二人がいれば世界なんて要らないだろう?)



fin



皆人さん、ありがとうございました!

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