風雲!壬生学園陰道中

33話 突き付けられた現実
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それから十日。
「千鶴!!部か・・・」
「ごめん、用事あるから!!」
シュタッと振り返らずに手を挙げて、ダッシュで保健室に逃げ込む。
そこから君菊さんの協力で剣道部に見つからないように逃げ帰る毎日。
私は退部の意思はまだ示してない。
けれど休憩時間も昼休みも放課後も毎日部活へと誘ってくる皆から逃げまくり練習を無断でサボり続けている。
この勢いで逃げていれば勧誘からも逃げられたんじゃって位の逃げ足の速さに自画自賛してしまう程。
本当はこんな風に逃げてるだけじゃ駄目だって、早く退部届を出すべきだって判ってる。
けど、なかなか言い出せないのは私にとっての剣道部がこの学園生活の中でかなり大きな存在になっていたから。
ずっと一緒に居る事は出来ないけど、許されるなら出来るだけ長く一緒に剣を揮っていたかった。
そんな私の願いが叶う訳もなく、しつこく声を掛けて来る皆を適当にあしらっている内に先に切れたのは向こうだった。
「いい加減にしろよ、千鶴!!」
ダンッ!!
目にも耳にも痛い音と共に廊下に平助君の声が響く。
「体育祭終わってすぐは疲れてんのかなと思ったけど、もう一週間以上だぜ!?いつまでサボる気だよ!!もうすぐ大会だってあんのに、やる気あんのか!?」
いつも快活な平助君に似合わない厳しい声音と視線は真っ直ぐ私に降り注いでいる。
珍しく顰められた眉間と剣幕と、それを向けられる相手である私に行き交う生徒の視線が集中して、その中でも同じ剣道部の皆の目は今の私にはとても痛かった。
「千鶴、判っているとは思うがもうすぐ新人戦の為の選手選考会がある。俺達は大会に向けて日々稽古を重ねているし、いくらお前でも鍛錬を怠れば選考漏れする可能性も拭い切れない」
「何より雪村君が来ないおかげで部長の機嫌がすこぶる悪い。結果下級生がそのとばっちりを受ける羽目になっている。何か理由があるならきちんと説明してくれないか」
斎藤君と山崎君も平助君と並んで私を問い詰めるけど、本当の事なんて言える訳がない。
ギリギリと睨み付けて来る平助君を横目に、私は思わず漏れた溜息を隠す事も出来なかった。
ふぅと深く長く吐き出されたそれが怒りに油を注いだようで、平助君が徐に胸倉を掴み上げて私を壁際に押し付け、初めて聞く低い声で凄みを利かせてくる。
「説明しろ千鶴、なんで部活に来ねぇんだよ」
「・・・行きたくないから」
「あ?」
背中に触れる壁よりもっと冷たい平助君の声が降って来て、瞼の奥が潤む。
けど泣く訳にはいかないから、拳を握り締めてそれを堪えた。
「行きたくないから、行かないだけだよ」
「な・・・っ!!」
「もう、剣道なんか飽きちゃった」
「平助!」
気付いた時には左頬にじわりと熱が浸みて口の中に鉄の味が広がった。
「やり過ぎだ、平助!!」
「雪村君、大丈夫か」
斎藤君が平助君を宥める横で、山崎君が気遣ってくれても顔を上げる事なんて出来なかった。
真っ直ぐ突き刺さる非難の籠もった視線が痛い。
「っざけんな!飽きたってなんだよ!お前俺達を何だと思ってんだ!!」
「落ち着け平助!」
もう一度胸倉を掴む手首を握り返して、私はそうと判らないように深呼吸してから平助君を睨み上げる。
泣かない、絶対泣かない。
「飽きたは飽きたの。何ってただのクラスメートでしょう?他に何があるの?」
「てめぇ!!」
「平助!」
振り上げられた拳を避ける事も無くじっと見上げて、羽交い絞めにする斎藤君を振り切ったそれが再び頬を打つ。
ゴツッと聞こえた音に骨が当ったんだと判って、自分の痛みよりも平助君の手が心配になった。
人を殴った手で竹刀なんて握れるのかな。
「雪村君、今のは君も悪い。俺達は・・・」
「用はっ!!」
私は最初に取り落とした鞄を拾い埃を落としながら、さすがに声音に剣を滲ませた山崎君の言葉を遮り三人に目を向けると、そこには怒りに目を吊り上げた平助君と困惑する斎藤君、少しだけ憐れむような色を浮かべる山崎君。
「用は、それだけ?だったら帰っていい?ちょっと忙しくて、悪いけど皆の相手してる暇ないんだ、ごめんね?」
そんな事は思ってないような口振りで、全然悪いと思ってない態度でそれだけ言い捨てて私は足早にその場を立ち去った。
背後で聞こえる鈍い音は壁を蹴り上げた音だろうか。
廊下の角を曲がり真っ直ぐ玄関に向かう。
まだ駄目。
まだ泣いちゃ駄目。
誰に見られるか判らないから、まだ駄目。
「おわっ!っと、千鶴?」
もうすぐ玄関に辿り着くそこで、蒼い制服と蒼い長髪が目の前に迫っている事に気付けず思い切りぶつかってしまった。
「匡く・・・ごめ・・・」
「ちょっと待て!お前、その顔・・・!」
思わず見上げた匡君は訝しげに目を細めた後、すぐに大きく見開いて私の腕を掴んだ。
「ごめん、急いでるから」
「おい!!」
何か言われる前にその腕も降り解いて足早に靴を履き替え今度こそ誰にも会わないように校門へ走り既に待機していた車に乗り込む。
そこでやっと私は、声を上げて泣く事が出来た。
私直属の運転手兼部下である彼は、何も言わずに静かに車を走らせて、振り向きもせずに白いハンカチを差し出してくれた。



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