風雲!壬生学園陰道中

33話 突き付けられた現実
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保健室に併設されたシャワールームで汗を流し、制服に着替える。
優勝を捥ぎ取っただけでなくMVPに選ばれた事で上がったテンションのまま、平助君に一緒にシャワールームに拉致られそうになった所にタイミングよく控え室に現れてくれた君菊さんによってそれは阻まれた。
「・・・疲れた」
「お疲れ様、千鶴ちゃん!」
思わず肩を落とし深い深い溜息を吐き出した耳に聞き慣れた声が飛び込んでくる。
「お、お千ちゃん!?」
「千鶴ちゃん、格好良かったよ。貴賓席ですっごく鼻が高かったわ」
両手を広げて私を抱き締めてくれるお千ちゃんが、言葉通りに誇らしげに笑ってくれる。
なんだかそれだけで疲れの大半が吹っ飛んで行くみたい。
「ホント?私格好良かった?あんな格好だったのに?」
「衣装は物凄く可愛かったしそれを着た千鶴ちゃんも可愛かったわ!!なのに格好いんだもん!惚れ直すしかないじゃない?」
「惚れ直すって、お千ちゃんてばもう・・・」
お千ちゃんの私贔屓は前からだけど、こうも褒め千切られるとさすがに恥ずかしい。
君菊さんはそんな私達をおっとり微笑んで見守ってくれている。
こんな時思う。
この二人がいてくれて本当に良かった。
挫けそうになった時に挫けていいんだよと甘やかしてくれる二人がいるからこの学園に入ろうと思えた。
勿論その後出会えた風間さんや左之先生の協力があってこそだけど、最初の一歩を踏み出す勇気が持てたのは二人のおかげだもん。
「ありがと、お千ちゃん、君菊さん。二人が居てくれて、本当に良かった」
抱き締められていた背中を抱き締め返して、温もりを感じながら心からの感謝を告げた。
ぽんぽんと優しく撫でてくれる手がどう致しましてと無言で答えてくれる。
何も言わなくても解って貰える、二人と居る時のこんな空気が私は好きだ。
一人ほんわかと暖かい気持ちで頬を緩めていると、ふいに二人の空気が変わった。
少し緊張を孕んだそれに眉を潜めてお千ちゃんを見上げると、お千ちゃんも少し眉を顰めて床を睨み付けていた。
「あのね千鶴ちゃん」
「うん?」
痛ましいような、困ったような笑みに戸惑いながら首を傾げた私にお千ちゃんは何か言い掛けて言葉を詰まらせる。
何事にも直球でおおらかな彼女にしては珍しい表情に私は嫌な予感がした。
「どうしたの、お千ちゃん」
「うん・・・あのね・・・お願いが、あるの」
「何・・・?」
ゆっくり促しても先を続けようとしないお千ちゃんに、君菊さんが身を乗り出そうとしたけれど、それを眼差しだけで制した彼女は一度強く目を閉じてから俯いた顔を上げた。
真っ直ぐ私を見つめるその目はよく見知った、水塚グループ総帥としての目だった。
「次期水塚グループ総帥として雪村千鶴に命じます。即刻剣道部を退部、彼等との接触を最小限に抑え速やかに今から伝える任務を遂行して下さい」
「え・・・?」
目を見開いて驚く私に、お千ちゃんはゆっくりと一枚の紙を差し出し私に目を通すように促した。
無言で渡されたそれに同じく無言で目を通した私は、驚愕に思わず目を見開いた。
「お千ちゃ・・・っ!これ、何これ!?」
「それがね、うちに届いたの。真偽の程は判らないけど、見過ごせないでしょう?」
ふっと小さく吐息を零す顔は深く憂いていて、事の重大さを匂わせる。
私は信じられない思いでその白い紙に書かれた内容をもう一度反芻し、キツく唇を噛み締めた。
「だから?調査を優先させる為に、剣道部を?」
「うん、それもあるけど、ね」
「それも?って事は他にも何かあるの?」
「うん・・・」
何となく歯切れの悪いお千ちゃんをじっと見つめて次の言葉を待つ。
そんな私に困ったように眉を下げたお千ちゃんはやっぱり何も言わなくて、見兼ねた君菊さんが助け舟を出してくれた。
「実は、千姫の元にいくつかの密告があったんです」
「密告?これとは別の?」
ヒラリと紙片を振った私に君菊さんは大きく頷いて、続きをお千ちゃんへと促した。
そしてもたらされた内容は、水塚グループ総帥補佐としては簡単に見過ごせるようなモノじゃなかった。


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