1/2ページ目 二人の試合は、まるで動きが無かった。 斉藤君は多分居合いを抜き放つ機会を窺っている。 匡君は興味無さそうに片手で構えた木刀を斉藤君に突き付けている。 最初の一撃以外、全く動きが無い。 どうやら初手は匡君の実力を測る為に繰り出したらしい。 そしてその一撃に匡君も警戒したまま動かない。 ピンと張り詰めた空気が道場に満ちて、私は懐かしい感覚に捕われた。 沖田さんと南雲君の醸し出す殺気とも呼べる剣気は、突き刺さるような痛みの伴う攻撃的なモノだったのに比べ、 この二人の放つ気はそれぞれの性質なんだろうか? 凛とした清浄さの中に、どこか優しさも含まれているようだった。 「動かねぇな。」 隣で痺れを切らしたように平助君が唸る。 確かに、見た目に動きは無い。 「うん、でも・・・きっと匡君から仕掛ける。」 「え?」 平助君がこちらを向いて私に問い返すより早く、匡君の俊敏な足は床板を蹴って斎藤君へと向かった。 「一君!!」 掛け声も何もなく、いきなり抜き放たれた剣に平助君が色めきたって声を上げた。 けれど斎藤君はまるで予期していたかのように軽く受け流すと、それまでの静寂が嘘のような激しい打ち合いが交わされ始めた。 「すげぇ・・・。」 声にこそ出さなかったけれど、私も内心感嘆の声を上げていた。 (本当に凄い。速さだけじゃない。二人共剣道じゃなく、剣術になってる。 実践でこそ通用するけど、こんなの大会とかじゃ一本にもならないな。) それだけ二人の技は速過ぎて、きっと高校の審判の目じゃ追い切れないだろう。 木刀でなく、真剣での勝負ならどれ程なんだろう? いつ終わるともしれない剣戟の中、匡君が楽しそうに笑い声を上げる。 「てめぇ、やるじゃねぇか!土方の腰巾着なだけかと思ってたぜ!」 「貴様こそ、見た目通りの軽い男かと思っていた。」 普段表情の見えない斎藤君ですら、何だか楽しそうだ。 ああ・・・この二人、本当に剣道が好きなんだなぁ・・・。 少しの羨望と嫉妬で、私は苦笑を漏らす。 きっと私はあんな風に人前で実力を出し切る事はないから。 誰かと真剣に遣り合える事が、羨ましかった。 [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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