Moments番外編

G与う温もり
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夏も過ぎ、秋も深まる山の奥。
そこには半年程前から若夫婦が居を構え睦まじく暮らしている。
今日も夕焼けで空が染まる頃、外見的には幼い妻が着物に火熨斗を当てていた。
「すっかり秋だなぁ・・・」
ぽつりと漏らした呟きには、秋を想いながら侘しさは欠片も見当たらない。
どころかどこか嬉しそうに微笑んで見上げた先には薄紅の着物が一着。
一度も袖を通された事のないように、パリっと糊の効いたそれを眺めるのが妻の近頃の日課。
「千鶴、今帰った」
「烝さん!おかえりなさい、お疲れ様でした!」
「ああ、今日はいい秋刀魚が入ったと町で・・・また眺めていたのか・・・」
「あ・・・だって・・・」
「いや、構わないんだが・・・」
呆れて妻を見下ろすのは、これまた外見的には随分若い山崎烝。
日がな一日気が付けば薄紅の着物を眺めている妻に嘆息しつつも、決して気分を害した訳ではないのは柔らかな瞳を見れば解る。
それでも申し訳なさそうに上目使いになるのは、本当に一日中眺めている自覚があるからだろう。
「そんなに嬉しかったか?この程度の物が」
「この程度だなんて!日本中どこを探したって着物を手ずから縫って下さる旦那様は烝さんだけです!!
だから私は日本で一番幸せな奥さんで、この着物は日本で一番素敵な贈り物なんです!!」
「わ、判った!判った・・・が、日本で一番、は・・・言い過ぎじゃないか・・・?」
烝の言葉にムキになって反論する妻、千鶴を宥めながら、さすがにそれは大袈裟過ぎると顔を顰めた途端、今度は泣きそうに大人しくなる。
(一人百面相か・・・?)
むすっと黙ってしまった千鶴の肩を柔らかく撫でながら口付ける事で、なんとか機嫌は直ったもののその晩の夕餉ではどれほど嬉しかったか、どれほど自分が幸福なのか。
口を挟む余地もない勢いで力説されてしまった。
だが照れ臭くはあってもそれ程に喜んでくれる事は正直嬉しい。
一週間有らぬ疑いを掛けられながらせっせと針仕事に勤しんだ甲斐もあると言うものだ。
(それにしても、ミキさんと親しげに話していただけで焼き餅か・・・)
前から一人で先走って落ち込む事の多い千鶴だったが、今回の件に関しては自分にも非があったとは言え自分の言葉た態度に問題があるのか?と不安にもなる。
(俺ならそんな早合点はしないが・・・それも俺を想っての事か)
等と一人口元を綻ばす烝だったが、まさか自分も同じ境遇に陥るとはこの時夢にも思っていなかった。



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