1/2ページ目 山崎と千鶴が雪村所縁のこの地に永住しようと決めて、まず最初にした事はこじんまりした家を購入する事だった。 幸い雪村家の廃墟となり掛けた屋敷に残された品々を売り払って金銭的な問題は無い。 あるとすれば、そこに住まう本人達だけだろう。 「烝さん、あまり人里から離れてしまうと大変じゃないですか?やっぱり雪村の屋敷を直した方が良くないですか?」 「いや、それは、そうなんだが・・・」 千鶴に声を掛けられた山崎は、困ったように、眉を顰めて千鶴を見つめた後なんでもないと被りを振って目を反らす。 「あの・・・でも、烝さんが嫌なら今日見つけたあの家でも構いませんよ?少し広い気がしますけど、二人で手直しすればきっと楽しいですよね?」 二人で共に居ようと誓い合い、それを形とする為新居を探し出したのはまだ一週間にもならない。 その間は雪村の屋敷に寝泊りしているのだが、この一週間山崎の様子は今のように何か言い掛けては躊躇し、また物言いたげに千鶴に視線を向ける。 決して不快な視線ではないのだが、さしもの鈍感な千鶴が堪え切れずに問い質すまでそう時間は掛からなかった。 「烝さんっ!」 「・・・何だ、千鶴」 「私に何かおっしゃりたい事、ないですか?」 「無い」 即答ですか! あんな何か言いたそうな視線を寄越しておいて、即答! これには千鶴も納得出来なかったようで(出来る筈もないが)さり気無く視線を反らした山崎の正面に回り込み下から顔を覗きこんだ。 逃げられないようガッチリ両腕を掴む事も忘れない辺り、千鶴も少しは学習したのかもしれない。 「では、私に何か頼みたい事はありませんか!?」 「だから、無いと・・・」 「嘘言わないで下さい!ずっと何か言いたそうにしてるじゃないですか!でも言い難そうなのは何でですか? もしかして羅刹に関する事ですか?また発作が酷くなってるんじゃないですか?血が必要なのでしたら・・・」 「違う!吸血衝動はほとんど抑まっている!それじゃない!」 「それじゃない、と言う事は、どれですか?私に言えないような事ですか?」 「それも違う!言えない・・・のではなく・・・言い難い、と言うか今更と言うか・・・いや、しかしこれは必要なのであって決して他意ある訳でもなく、いや、しかし・・・」 「あのぉ・・・烝さん?」 「な、何だ!?」 千鶴の目の前で薄っすらと頬を染めてブツブツ独り言を言い始めた烝は一瞬彼女の存在を遮断していたらしい。 胡乱な視線に晒されて珍しく狼狽した山崎に、思わず噴出してしまったのも仕方ないだろう。 「何だって、こちらの台詞ですよ、烝さん!もう、今確実に私の事忘れてましたね?それで何なんですか?言い難いって・・・あ、もしかしてやっぱりお金の問題ですか?」 「いや、それに関しては全く問題ない。網道さんは物持ちも趣味も良かったんだな。随分助かっている」 「そうなんですか?私にはよく判りませんが・・・じゃあ、一体何が問題なんですか?」 きょとんと目を瞬き見上げる千鶴の姿は薄い紅色の羽織に白い袴。 高く結い上げた髪が風に揺れ随分愛くるしいと思う。 思うが、しかし、その姿は京に居た頃から変わらず男装のままなのだ。 これから二人は近いうちに祝言を挙げて夫婦にもなろうと言うのに、男装のままでは問題有りまくりな気がする。 山崎としては出来れば男装を解いた千鶴と共に街に下りたいのだが・・・未だに二人で買い物に行かないのはそう言う理由だと千鶴は気付いては居ない。 「烝さん?」 だが何時までも先延ばしにしても仕方ないのも事実。 意を決したように山崎は千鶴の肩をガッシリ掴み真摯な面差しで口を開いた。 「千鶴、着物を脱いでくれ」 「へ・・・」 「あ・・・」 「す、烝さんの馬鹿ぁぁぁぁ!!!」 「違―――う!誤解だ千鶴!待て!茶碗を投げるなぁぁぁ!!」 [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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