遙かなる時空の中で3

下弦の月
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最近、夜毎俺の寝所を訪れる女がいる。
女は何を言うでなく、肌を露にし、俺にしな垂れかかる。
初めて訪れてきたのは下弦の月の夜。
特に拒む理由もなく、殺気も邪気も感じない女を、俺も夜毎抱く。
虚ろな瞳には何も映さず、今まで俺が相手にしてきたどの女とも違う。
一度気紛れに名を尋ねてみた。
すると女は驚いたように目を見開き、結局小さく微笑んだまま、名を告げる事なく去っていく。
特に女に、しかもただ夜伽を勤めるだけの相手に興味も抱いた事も、名を聞いた事もない俺が
珍しく聞いてやったのに
答えもせずに去るとは・・・少々腹正しい思いに舌打ちが漏れる。
「名も無き下弦の君か・・・。」
「どうしたぁ?知盛?」
今や還内閣として、平氏一門を率いる有川が眉を顰めて俺に問うてくる。
「別に・・・億劫な事だ、と思っただけだ。」
「お前は、億劫じゃねぇ時なんかあんのかよ?」
「そうだな・・・ない・・・か?いや・・・。」
「お、何だ、あんのか。」
「最近・・・毎夜俺の寝所に訪れる女がいる。」
「最近って・・・お前は女がいねぇ夜はねぇだろがよ。」
「そうでなく、毎夜同じ女だ。」
「あ?珍しいな、滅多な事じゃ同じ女を買わねぇお前が。」
「呼んだ覚えはないが、特に問題もないので放っておいた。」
「覚えがないって、危ねぇんじゃねぇのか?んで、案の定問題が起きたか?」
俺が問題があると言うので、何か厄介事だとでも思ったか。
有川が渋面を作り唸り出す。
全く、面白い男だ。
「いや・・・昨夜、名を聞いた。」
「お前が?」
「ああ。」
「自分から?」
「ああ。」
「・・・そんないい女だったのか?」
「・・・・いや・・・容姿は・・・上の中・・・と言った所か。」
「へぇ、そんで、どこが気に入ったんだよ?」
「さて・・・俺に気がない所・・・か。」
「へ・・・・え〜?お前の相手をしたがるくせに、お前に惚れてねぇ女なんか初めて聞いたぜ。
で?何て名だよ。」
「聞いていない。」
「は?」
「名を聞いたが、答えずに去った。」
これには有川も心底驚いたようだ。今まで一度でも俺に抱かれた女は、その後何度も抱かれたがり、自分を強く印象点けようと躍起になる女ばかりだったから。
「マジかよっ!?何者だ、その女?マジで間者とかじゃねぇんだな?」
「あれ程殺気も邪気もない間者も珍しい。が、かと言って俺へ恋慕の情がある訳でもない。不思議な女だ。」
「は〜奇特な女もいたもんだ。ああ、女と言やぁな。」
有川は急に興味を失ったように話の矛先を軍事に戻す。忘れていたが軍事の真っ最中だった。
「源氏にも、すげぇ女がいるらしい。源氏の神子って呼ばれてる。女だてらに滅法強い。
戦い振りを見た兵の話じゃ、剣の腕も鬼神の如きだったとさ。」
「ほぉ・・・?」
興味深い話に俺の双眸は深まる。
名も告げぬ女より、血に塗れ、剣を取って戦う女の方が興味が湧く。
「会ってみたいモノだな、その、源氏の神子とやらに・・・。」
「会えるさ、今日の和議が失敗に終わればな。」
「和議・・・か、成ると思っているのか?」
「いや・・・だが・・・成ればとは、思う。」
「ふ・・・・還内閣殿も気苦労の絶えぬ事だな。」

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