1/7ページ目 日差しが窓から射し込み、柔らかな風が頬を撫でる。 その風に運ばれて、甘い桃の香りが鼻を擽った。 (・・・ああ・・・もう・・・春なんだなぁ・・・) 姉である一ノ姫が王位に就いてもう随分経つが、王の補佐としての仕事を覚える為に千尋は日々勉強ばかりしている。 (・・・頭痛い・・・) 覚えなければいけない作法・政治・今では友好関係にある常世の国との外交。 姉は全てをソツ無くこなしていくのに、自分はいつまで経っても一人前になれ無い事に自己嫌悪しか出て来ない。 「・・・ちょっと一息入れて来るわ。」 「はっ。ではお供致します。」 「大丈夫よ、布都彦。風早の所へ行くだけだから。」 「・・・では、尚更お供します。」 「布都彦・・・。何度言えば判るの?忘れているかもしれないけど、風早は私達の仲間なの。一緒に常世の国と戦った大切な仲間なの。」 「姫に何と言われようと、私は風早殿の事を存じません。見も知らぬ人間の元へ姫を一人で行かせる訳にはいきません。」 千尋は大きな溜息を吐くと、後ろを付いて来る布都彦に諦めにも似た視線を送る。 (・・・何故、皆思い出せないのかしら・・・。) 無理もない、とは思う。自分にしても、すぐには思い出せなかったのだ。 しかし全ての記憶を呼び覚ました今となっては、何故自分よりも付き合いの長い筈の皆が忘れたままなのかが不思議でならない。 そんな事を考えながら歩いていると、前方から濃紺の装束を纏った男がこちらへ向っているのが見えた。 (・・・しまった・・・。) 咄嗟に浮かんだのは、そんな姫らしからぬ台詞。 布都彦が同行しているだけでも憂鬱であるのに、今またあの男にまで見咎められてしまっては風早と二人でゆっくり過ごす事は更に困難になってしまう。 「姫、どこへ?」 「・・・・風早の所へ。」 嘘を吐いてしまおうかと思ったが、布都彦がいるのでそれも叶わない。 仕方なく正直に今から逢いに行く人物の名を出すと、途端に相手の顔が顰められる。 「姫、何度も言うようだが信用の出来ない人間を君の傍に置く訳にはいかない。 どうしてもと言うので橿原の宮近くに留まる事を許しているが、だからと言って君の言葉をそのまま信じた訳じゃない。」 だからあまり近付くな。 そう言外に告げられて、しかし素直に頷く事も出来ない。 数ヶ月前、風早をこの橿原の宮に連れて帰った時、最初の難関は忍人さんだった。 [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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