短編集

言の葉一つ 想い二つ〜345,678HIT:ルカ様キリリク
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「千鶴!お代わり!!」
「はい、どうぞ平助君」
「あ、俺にも!!山盛りで頼むぜ!」
「永倉さん、落ち着いて食べないと喉に詰めますよ?」
「千鶴、茶を頼む」
「熱いですから気を付けて下さいね、斎藤さん」
まるで母のように甲斐甲斐しく幹部の世話を焼く様はいつも通り。
昼間、怒って見えたのは気のせいかと思った井上と左之助だったが次の瞬間それこそが気のせいだと思い知った。
「千鶴、茶」
「はい、どうぞ」
無表情な顔と声とドンと言う低い音。
広間に響いたそれに皆が目を向けると、湯呑みを差し出す土方の膝元に置かれた急須と既に土方に背を向けて自分の席に戻る千鶴。
「てめぇ・・・どういうつもりだ・・・」
「やだなぁ、土方さん。一人でお茶も入れられないんですか?いつもいつも千鶴ちゃんに五月蝿く言ってるから怒らせたんでしょ。ね、千鶴ちゃん」
「原田さん、ご飯のお代わりいかがですか?」
にっこり千鶴が微笑んだのはその向こうで話しかける沖田ではなく逆隣に座っていた左之助に向かって。
「え・・・!?俺!?いや、俺、は・・・」
左之助としてはお代わりより何より射殺しそうな殺気を発しながら笑う沖田が怖すぎてどうにも答えようもない。
見事に土方と沖田を無視する千鶴の怒りは、この日だけでは納まらなかった。
翌日もどれだけ沖田が笑い掛けようが土方が呼び付けようがまるで存在自体見えていないかのような徹底ぶり。
そんな千鶴に土方がキレるのも当然と言えば当然で、中庭で洗濯を干していた千鶴に呼び掛けても無視された事で燻った憤りが爆発したのは致し方ないだろう。
「千鶴!てめぇいい加減にしろ!言いてぇ事があんならはっきり言え!」
周りに居た左之助や平助の方が射竦む程の怒声に、それでも千鶴の態度は変わらなかった。
「何の事ですか?言いたい事なんて無いですよ?お茶が欲しいなら土方さんのイイ人に淹れてもらえばいいじゃないですか」
それだけ言い捨てて立ち去った千鶴を目で追う土方の背中は怒りの為か小刻みに震えていた。
さすがに気の毒になった左之助が事の次第を説明すると、二人ともやっと合点がいったと胸を撫で下ろす。
「って事はさ、千鶴ちゃんはあの子達に妬いたって事?」
「そうなんじゃねぇのか?あん時の千鶴の怒りっぷりは半端じゃなかったぜ?それは二人の方がよ〜くわかってんだろ?」
「なんであれを見て怒るってんだ。俺はハッキリ断ってたろうが!」
「だから、そうじゃなくてああいう手合が来たって事に怒ったんだろ?まぁ、俺にはどうしようもねぇから、二人して頑張ってくれ」
これ以上関わりたくないとばかりに逃げた(ように見えた)左之助を見送り、土方と沖田は顔を見合わせる。
「あ〜あ、土方さんのせいですよ、あの時ちゃんと断らないから」
「は!?ふざけんな、総司!てめぇも人の事言えねぇだろうが!」
「やだやだ、人のせいにばっかりしちゃって。僕はただの組長で土方さんは副長なんですから、そこは上司として毅然とした態度と誠意でもって応対してくれないと」
組長にただもくそもねぇだろう!
そうは思っても沖田の言う事に一理はあると思ったのか、てっきり怒声が響くと構えていた沖田は無言で考え込む土方に拍子抜けだ。
「土方さん?どうしちゃったんですか?何か悪い物でも拾い食いしました?」
「新八でもねぇのに拾い食いなんかするか!どうすりゃいいか考えてんだよ!!」
「ああ・・・どうって、謝るしかないんじゃないですか?」
「何を」
「何をって・・・あれ?」


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