1/6ページ目 いつもと変わらない秋晴れの中、千鶴が屯所の掃除をしている時にそれは訪れた。 「ごめんくださ〜い」 野太い男性の声ではなく、甲高く少し鼻に掛かった声に嫌な予感がした。 この直感が正しければ、千鶴が出るべきではなかったのだろう。 が、運悪く門番をしていた隊士は所用で持ち場を離れてしまって誰もいない。 「すみませ〜ん」 再び聞こえる声に、当惑しつつ千鶴が玄関へと向かうと先に土方と沖田が対応している処だった。 (あの二人が一緒なんて、珍しい) 思わずそんな言葉が出てしまう程二人は仲が悪かった。 仲が悪いと言うより年上の兄に末っ子が甘えている、とも見えるが本人達にそれを言ったとしても激しく否定されるだけだろう。 二人が客の相手をするのをじっと見ていた千鶴だったが、どうも様子がおかしい。 押し売りや借金取り(?)の類ならあの二人に掛かればとっとと追い返されてしまう。 逆に新選組にとって大切な客人なら奥に通して茶なり出してもてなすだろう。 なのにそのどちらでもなくただ玄関で押し問答しているだけのようだ。 「色男は大変だねぇ、二人とも」 「源さん、呑気な事言ってねぇで助けてやってくれよ」 「ひゃ!?」 廊下の角から首だけ覗かせていた千鶴の背後に、いつ来たのか井上と左之助が立っていた。 「ああ、ごめんよ雪村君。驚かせてしまったかい?助けてあげるのは簡単だが、ああいう類はちょっとやそっとじゃ諦めないだろう? ここは私のような年寄りが口出しするより本人達に任せた方がいいだろうさ。それに、私より君が行った方が丸く収まるのじゃないかね?」 「冗談じゃねぇ、薮を突いて蛇に噛まれんのはごめんだ」 「じゃあ放っておくしかないだろうねぇ」 「違いねぇ」 「あの、お二人ともお客様の事ご存知なんですか?お茶とかお出ししなくていいんでしょうか?」 どうやら客について知っているらしい口振りの二人は、少し驚いた後揃って苦笑を漏らした。 「止めとけ止めとけ、今俺が言ったろ?薮を突いて蛇に噛まれんのは、俺だけじゃねぇんだぜ?」 「そうそう、馬に蹴られたくもないしね、私は見て見ぬ振りをさせてもらうよ」 井上はにこやかな笑顔を浮かべ、左之助はちょんちょんと千鶴の頭を突き再び玄関へと目を向けさせた。 「よ〜く聞いててみろ、どんな客か判るからよ」 「は、はぁ・・・?」 左之助に言われた通り、よ〜く耳を澄ませていると微かに二人の声が聞こえる。 「だから!こっちはそんなつもりさらさらねぇって何遍同じ事言わせんだ!」 「そうなんですか?土方さんはてっきりそんなつもりだと思ってましたけど?」 「総司!そう言うお前も人の事言えねぇだろうが!いつも腹が立つ位上手く立ち回るのが、今回に限っちゃどういうこった?」 「もう!二人ともいい加減にしてぇな!うち等はちゃ〜んとお二人がお付き合いしてくれるんやったら大人しゅう帰るて言うてるんよ? それを二人でぐちぐち言い訳ばっかりして!」 「ほんまほんま!沖田さんも酷いわぁ!うちの事可愛いて言うてくれたやんか!」 「あれ?僕そんな事言ったかなぁ?君の簪が可愛いねって言ったとは思うけど?」 どこをどう聞いても二人の女性は土方と沖田に対して”個人的なお付き合い”を強要しているように聞こえる。 しかも二人の台詞からしてこう言った事は今回が初めてな訳でもないようだ。 事の次第を理解した千鶴は呆気に取られると共に何やら胸の奥がモヤモヤと嫌な気分になってきた。 「・・・私・・・お洗濯とお掃除がまだ途中でした」 それだけ言い残し振り返りもせず立ち去る背中は、仄暗い怒りの炎が見え隠れし井上と左之助さえも一瞬息を呑んだ。 「こりゃぁ・・・荒れるかもしれないねぇ」 一人呑気な井上の言葉が現実となるのはその日の夕餉の席の事。 [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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