短編集

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【スクール水着を追え!】




7月に入り暑さも否が応にも増す季節。
梅雨らしい梅雨を迎える事もなく過ぎ行く初夏は、ここ薄桜学園にもそれなりに気だるい風を送り込んでいた。
そんな中、永倉の発した他愛ない一言が一気に学園全体の空気を引き締め殺気立たせるとは、まさかに学園長の近藤も思っては居なかったろう。
もしも思っていたとしたらとんだ策士だが、近藤に限ってそれだけは有り得ないとは教頭である土方のお墨付きである。
「え〜・・・まぁ、毎日暑いんだけどよ!俺だって暑い!だが何故あの時あの馬は熱くなってくれなかったんだ!
あそこで熱くなってくれてりゃ俺の財布も厚く・・・!!!」
「新八、貴様の馬鹿話はどうでもいい。早く明日の予定とやらを言え」
「いや、あのな斎藤、俺一応教師なんだよ・・・それなりの敬意払ってくれよおおお」
「万年ジャージに捩り鉢巻、ポケットには常に赤ペンと競馬新聞を忍ばせた教師に敬意か・・・フ・・・片腹痛いな・・・」
「そう言ってやんなって斎藤君!ほら、新八センセー!いいから続き続き!あっちぃんだから早くしてくれって!」
「・・・なんかどっかの学園ドラマに出てきそうな呼ばれ方でやだな・・・」
「あの、永倉先生。明日の時間割りに変更があるんですか?」
生徒から虐げられる(自業自得な)永倉に助け船を出したのはこのクラス、いや、この学園唯一の女生徒である見た目も中身も愛らしい雪村千鶴だ。
ドスの聞いた低い声に慣れた永倉の頬がついつい緩みがちになっても致し方ないだろう。
しかしそうは思えないのが千鶴を影から日向から常に見守っている(時には見守るだけでは終わらない)沖田総司だ。
「ねぇ、昨日の競馬話や新八さんの財布事情なんかどうでもいいんだけどさ、さっさとHR終わらせてくれない?暑いんだけど」
「暑いたって冷房かかってんじゃん」
「気分の問題だよ。あの顔見ながら涼しさを感じられるなんて平助の体感温度狂ってんじゃないの?」
「いや、まぁ・・・確かに暑苦しいけどさぁ・・・」
「そこおおおおっ!何気に人の顔を好き勝手言ってんじゃねぇ!くそおおおっ!だが確かに暑い!
今年は冷夏とは思えん位暑い!そんなお前等を一気に涼しく気持ち良く過ごさせてやる為に、明日の体育はプールになったからな!
水着忘れんなよ!」
「おお!やった!」
「この暑い中男だらけで芋洗い状態のプール・・・」
「何言ってんだ斎藤!男だらけじゃねぇだろ!な、千鶴ちゃん!
当然スクール水着着用だから忘れんなよ?」
「え・・・?わ、私も、入るんですか!?」
「へぇ・・・新八さんの割にいい事考えるね。でも、千鶴ちゃんのスクール水着姿なんて、そんなのを学校のプールに放流しちゃってもいいの?」
不安気に顔を曇らせた千鶴の横で、またしても総司のピリリと辛口な一言が発せられた事に反応したのは、
勿論イタイケナ赤ずきんちゃんを常に見守るクラスの面々だ。
「あ!そうだよ、新八っつぁん!ダメじゃん!千鶴のスク水なんか、そんな貴重なもん放流したら危ないって!!」
「そうだな、特にあの生徒会長などが煩わしい事この上無いだろう。新八、千鶴だけ見学には出来ないのか」
「ダ〜メダメ!何言ってんの?斎藤君、そんな事したら僕等まで見れないじゃない」
「だが、千鶴の危険を思えば・・・」
「あ、じゃあ斎藤君は見なくていいよ、僕だけ楽しむから。ね、千鶴ちゃん」
声を掛けられた千鶴としては何とも答えようがなく苦笑いするしかなく、そんな複雑な心境の本人を他所に周囲だけがひたすら熱く盛り上がっていく。
「ええい!四の五のうるせぇい!!明日はプール!千鶴ちゃんはスクール水着!これに変更はない!!
判ったら野郎ども!明日は体張って千鶴ちゃんを守り抜け!!いいな!」
「了解」
「まっかせろ!」
「承知した」
「雪村、その、大丈夫なのか」
「は・・・なんとか・・・」
唯一千鶴の身を本気で案じている山崎の言葉に曖昧に頷いた千鶴だったが、
まさか明日の我が身があれほどの災難に巻き込まれるとは、この時の千鶴は露程も思っていなかった。


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