短編集

君の手に触れながら〜あやさんリク〜
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月明かりが輝き出す宵の口。
いつも騒がしい幹部のほとんどが島原に出掛けてしまい、残された斎藤と山崎は二人で静かに盃を傾けていた。
「今日は満月でしたね。月がよく見えます。」
「そうだったか。隊務に准じていると、空を見上げる余裕すら無くなるな。」
お互いそれ程口数も多くなく、人と交わる事自体苦手な為、少ない言葉でそれぞれの思惑を組み合える相手が嫌いではない。
二人だけで月を見上げ、星を肴に酒盃を重ねる。
外からの風が優しく頬を撫で、運ばれた華の香りに一人の少女の姿が脳裏に浮かんだのは、二人同時。
「そう言えば、先日雪村君と買い物に出掛けた際、彼女が川原の花の中に転んでしまって、髪が花弁だらけになった事がありました。」
独り言のように呟いた山崎の言葉に、それまで伏せ気味だった視線を若干鋭くした斎藤が首を傾げる。
「千鶴と?二人で、買い物に?」
「ええ、はい。買いたい物があるからと。一緒に来てくれと乞われたので。」
「・・・そうか。俺も時々だが同じように誘われる事がある。隊務に支障が無ければ付き合ってやるようにしている。」
「そうなんですか?甘味屋にも誘われましたよ。新作が出たからと。」
「角の甘味屋だろう。先週共に行った。」
「・・・季節になれば花見に行きたいと言っていましたね。」
「それは山崎君だけでなく皆と一緒にと言う意味ではないか?」
「でしたら皆に言う筈では?彼女は俺だけに言って来ましたが。」
静かに酒を呑んでいた筈が、山崎の一言から段々二人の纏う空気が険しい物に変わっていく。
激しく言い合いしない分、静かに散らされる火花は別の意味で怖いかもしれない。
そして千鶴が誰と花見に行きたいのか議論を重ねた結果、結論を出せない二人は直接本人に聞こうと酒を口実に千鶴の部屋を訪れた。

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