短編集

疑惑のバレンタイン
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一方、千姫からバレンタインの話しを聞き、ついでにその日に贈るのだと言うチョコラテまで貰った千鶴。
「どうしよう・・・?」
渡したい相手がいない訳ではない。
だがその相手は現在任務の為京を離れており、明日までに帰って来ない。
しかし折角貰ったチョコラテ。
無駄にするのも一人で食べてしまうのも惜しい。
「とは言っても、皆で分けるには、少ないよねぇ?」
どうしようかな?と首を捻る千鶴に、監視が付いた事を本人だけが知らない翌日。
朝餉時から漂う不穏な空気に千鶴は首を傾げる。
「皆さんどうかされましたか?何だか様子が・・・。」
「べ、べべ別にどうもしねぇよっ!?」
「そ、そそそそうそう!今日が何の日とか関係ねぇし!」
「え?今日って・・・。」
挙動不審な平助と新八に千鶴が更に不信感を露わに仕掛けた時、ゴンッゴンッと小気味いい音が響く。
「え・・・と・・・?」
「何でもねぇよ、千鶴。こいつら腹減りすぎて可笑しいんだ。」
「そうそう。だから早くご飯にしようよ、千鶴ちゃん。」
左之助と総司の機転で何とか誤魔化した幹部はほっと胸を撫で下ろす。
「平助?余計な事言って警戒されちゃったらどうするの?ねぇ?」
「お前もだ、新八。言わなくていい事言ってんじゃねぇ。」
『千鶴から告白される』権利を皆が虎視眈々と狙う中、一人何も知らない千鶴は朝餉の後も掃除をしながらチョコラテの行方に頭を悩ませる。
(どうしようかなぁ?)
ぼ〜と中庭の掃き掃除をする千鶴。ふっと気付けば何故か回りに幹部達が勢揃いしている。
「あ・・・あれ??皆さん、今日はどうされたんですか?」
「ん?いや、今日は俺等たまたま全員非番だったんだよなぁ。で、暇だしよ、千鶴の手伝いでもするかってな。」
「そうなんですか?でも、折角のお休みなんですからゆっくりなさってて下さいよ。」
「俺達は非番があるがお前にはないだろう。皆、掃除洗濯に食事の仕度と精を出すお前の手伝いをしたいのだ。」
斎藤の上手い言い訳に一同も大きく頷き千鶴を凝視する。
あまりにじっと見られた千鶴は気恥ずかしさに頬を染めるが、その可愛いさに皆の鼻の下も伸び切っている。
早速皆で手分けして千鶴の掃除を手伝おうとするのだが・・・。
「俺が庭の草抜きするって!」
「いや、そこは俺だろ?」
「何言ってるの?僕がやるに決まってるでしょ?」
「お前等いい加減にしろよ。」
「俺も草抜きで構わない。」
「あの・・・草抜きはお一人で構わないですよ?」
「「「「判ってるって!」」」」
皆で声を揃えて答えるが、今日に限って何故こうも積極的なのか判らない千鶴は困惑するしかない・・・。
(皆さん、そんなに草抜きが好きだったんだ・・・。)
頓珍漢な答えに辿り着いた千鶴を余所に、皆で取り掛かった草抜きはあっと言う間に終わってしまい、手持ち無沙汰な幹部は再び千鶴に詰め寄る。
「千鶴!次は何したらいい!?」
「何でも言えよ、何でもしてやるからな。」
「次は廊下の拭き掃除とか?あ、破れた襖の張替えでもいいね。誰が破ったかは言わないけど。」
「「うっ!!」」
激しいじゃれ合いでしょっちゅう襖を破く平助と新八は、総司の冷たい視線に縮こまりつつ無言で襖の張替えへと向う。
ここで二人が戦線離脱し、残った左之助と総司と斎藤の三人は廊下の掃き掃除と拭き掃除を開始する。
「あの・・・本当にすみません。皆さんお疲れなのに・・・。」
「いいっていいって。気にすんな。」
「たまにはこういう休日も新鮮だしね?」
「足腰の鍛錬にはちょうどいい。」
三者三様の答えに感動する千鶴ははにかんだような笑顔で再び礼を述べ掃除を再開した。
(やっぱ・・・。)
(可愛いよね・・・。)
(・・・。)
三人がどうやって千鶴と二人きりになるか各々画策する中、土方の怒号がどこからともなく飛んで来た。
「千鶴〜〜!!いるか!」
「はいっ!土方さん、ここに!」
「ああ、こんなとこに・・・って・・・お前ら何やってる・・・。」
「何って・・・。」
「掃除?」
「総司が掃除か・・・座布団を一枚やろう。」
「「「「・・・。」」」」
(おいおいおい!何だ今の!!?)
(知らないですよ!僕に聞かないで下さい!)
(緊張し過ぎて壊れたか!?)
(緊張って、斎藤さんどうしたんですか!?)
どうやら千鶴の告白相手が気になり過ぎて緊張の糸が究極まで張り詰めた挙句切れてしまったらしい。
「お前ら・・・休みに掃除する元気があんなら後でたっぷりしごいてやらぁ!千鶴!ちょっと来い!」
「って土方さん!千鶴ちゃんを何処に連れて行くの?」
「そうだぜ、今日ばっかりは土方さんでも千鶴は渡せねぇな。」
「え・・・と・・・?とりあえず・・・何の御用ですか?」
「近藤さんの知り合いのお嬢さんが明日誕生日らしい。祝いの品を一緒に買いに行って欲しいんだと。」
「あ、じゃあここの掃除が終わったらすぐに行きますね?」
「いや、すぐ行って来い。近藤さんが待ってるからな。お前ら、千鶴の代わりに終わらせとけよ!」
「「え〜〜〜〜!!??」」
二人から抗議の声が上がるが、さすがに近藤局長のお遣いとなれば強く引き止める事も出来ずに千鶴を見送る。
「なぁんか、あれだよね、結局誰にも告白しないで終わりそうなんだけど・・・。」
「そうだなぁ。勝手に誰かにって決め付けてたけど、よく考えりゃ千鶴に好きな男がいるかどうか判んねぇんだ。」
とりあえず誰にも告白しない事を祈りつつ、黙々と廊下掃除を進める二人であった。

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