1/1ページ目 伊東 甲子太朗の場合 「伊東さん、私に稽古を付けて下さいませんか?」 「貴女に?アタクシが稽古を付けるですって?」 普段護られてばかりで弱い自分を自覚している千鶴は、北辰一刀流の師でもある伊東に稽古を願い出た。 伊東はマジマジとシゲシゲとジロジロと、上から下(?)から右から左からあらゆる角度から千鶴を眺めた後 頷いた。 「稽古を付けてさしあげてもいいわよ。」 「本当ですか!?ありがとうございます。」 断られるかと思った千鶴は、喜色に顔を輝かせるが・・・。 「但し、アタクシの用意した稽古着を着るなら・・・ですわよ?」 「・・・・はい?」 数刻後、千鶴は居た堪れない思いで鍛錬場に立っている。 「ああ、やっぱりいいわね〜。もうムサくて汗くさくて暑苦しくて毛深い男の相手はうんざり! 土方副長や原田組長のような方なら・・・喜んでお相手するんですけどね?」 気色悪い流し目に晒された千鶴は苦々しい顔の下で呟きを洩らす。 「は・・・・あの・・それで、これは・・・」 「ムサイ臭い毛深い三重苦の相手をするアタクシの苦悩が判っていてだけて!?雪村さん!!」 「はい!!・・・それは、もう充分!」 何しろ先刻から既に何十回と同じ話しを延々延々と・・・聴かされているのだから。 耳タコどころかイカもタイもフグまでぶら下がる勢いだ。 「それで、この私の稽古着の意味は?」 「貴女、よ〜〜〜くよくよく見れば、三百歩譲って差し上げたら見れない造作ではないのよ。 だからね、折角稽古を付けるなら、見た目も楽しくなくっちゃねぇ?」 その日の千鶴は、屯所では男装、と言う土方との約束も何処へやら、桜色の胴着に桃色の袴。 腰紐には西洋から仕入れたという鮮やかな橙色のレ〜スをあしらい、 胸元の襟には同じく目に痛い程黄色のレ〜スが重ね襟として使用され、これまた袖口にも桜色のレ〜スが着いている。 高く結い上げた髪紐にも、真っ赤なレ〜ス。 耳の上で揺れる簪類数本は、色とりどりの宝玉が散りばめられ重たい事この上ない。 「でも、これでは動き難いんですが・・・。」 「あら、そう?じゃあ、お稽古は止めにして、あちらでアタクシとお茶にしましょう。 その時にそのレ〜スの紐をお貸し下さらない? そうそう、その簪もいいわねぇ? ああ、アタクシにも桃色の袴は似合うと思わない?思うでしょ?思うわよね〜?」 にじり寄られレ〜スを剥ぎ取られながら、この人はただ自分が装いたくて自分を隠れ蓑に女物の着物を購入しただけでは・・・と 思い至った千鶴は、数瞬でキラキラしくレ〜スを装い満面の笑顔の伊東を残し 頼んだ相手が間違いだったと考えを改めた。 [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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