1/7ページ目 季節は秋。 ここ、西の山奥深い鬼の里にも、秋の気配が次第に濃くなり、皆冬支度を始める季節。 この夏に祝言を終え、まだ新婚ほやほやと言っていい筈の里の頭領である風間千景。 彼の眉間には、ここ最近不機嫌そうな皺が深く深く刻まれ消えないでいる。 「よぉ・・・今日も随分ご機嫌斜めだなぁ。」 「はぁ、実は、今日もまた・・・。」 「千鶴が帰ってねぇのか・・・。」 「はい、そうなんです。」 ぼそぼそぼそぼそ・・・。見た目はかなりいい筈の二人、不知火と君菊は、風間に聞こえない程の極細声で会話を続ける。 風間千景の眉間の皺が消えない訳。 それは二人の言う通り、新妻である千鶴の帰りがここ連日と言うもの、夫である風間よりも遅いのだ。 風間自身それを快く思っていないのは、端から見れば明らかなのだが、帰宅した千鶴が詫びれもなく、 「ごめんなさい、千景さん。」 等と笑顔で手を合わせるので、その顔に風間はぐっと押し黙り、結局何も言えなくなるようだった。 「ってか、実際千鶴は毎日どこほっつき歩いてんだ?」 「昨日は里の子供達と紅葉狩でした。一昨日は近所の主婦からお料理を教わっていたようです。 その前は畑仕事のお手伝いで泥だらけになっておられました。その前は・・・。」 「いや、判った・・・もういい。」 このままでは千鶴がこの里に来てからの行動を全て語り出しかねない君菊に、不知火が途中で言葉を挟む。 「んで、今日は?何やってんだ?」 「今日は千姫様と朝出掛けられました。天霧さんもお供をされていたようなので、問題はないかと。」 「へ〜?珍しいな、千姫が千鶴を連れ出すなんざ・・・・。」 「お邪魔しま〜す。」 噂をすればナンとやら、ちょうど二人の会話を聞きつけたかのように千姫が一人風間家を訪れた。 「おかえりなさいませ、千姫様。」 「お〜おかえり、千姫。」 「・・・。」 笑顔で出迎える二人に千姫は一瞬顔を曇らせ、大きく溜息を吐く。 「君菊はともかく、不知火もちゃんと言えるのに・・・。」 「あ?俺がどうしたって?」 眉を顰める不知火に、ずいっと顔を近付け千姫が睨みつける。 「な、なんだよ。」 「帰ったきたら、ただいま、は常識よね?」 「・・・は?」 「ただいまが聞こえたら、聞こえなくても、家人が帰って来たら、おかえりも、常識よね?」 「・・・・まぁ・・・普通は、言うだろな。」 「そうよね、そうなのよね・・・。」 「何なんだ・・・一体。」 突然禅問答のような質問を浴びせられ、困惑する不知火を余所に、千姫は苦渋の面を作ったまま。 「千姫様?どうかなさいました?」 「ん?ん〜〜・・・そうねぇ、私はどうもしないのよ、問題は、あの俺様なのよねぇ・・・。」 は〜〜と、もう一度深い溜息を吐いた時、 「ただいま〜」 元気な声が玄関から聞こえてきた。 「千鶴様がお帰りですね、お出迎えに参ります。」 「待って!君菊!!」 玄関に向かおうとする君菊をハシッと引き止める千姫。 「待って!俺様が先に出迎えるまで、待って。」 「構いませんが、しかしそれでは・・・。」 「いいから!あ、行ったみたいね、行こう。」 風間が玄関に向かったらしい足音を聞き取ると、後を追うように千姫も玄関へと向かう。 不知火と君菊は顔を見合わせ混乱するばかり。 「ただいま戻りました、千景さん。」 二人がちょうど玄関に着くと、にこやかにそう告げる千鶴と、眉間に皺を寄せたままの風間。 そして満面の笑顔の千姫。 千鶴は「ただいま」の後、黙ったまま玄関の敲きから上がって来ない。 「・・・今日も、遅かったようだな。」 誰も言葉を発せず、その場から動こうとしない千鶴に、風間が根負けしたのか重い口を開いた。 しかし出てきた言葉は帰りの遅い新妻を責めるような内容で、一瞬千姫が顔を顰める。 千鶴はといえば、それまでにこにこ微笑んでいたのが、風間の一言に瞬時に泣きそうに顔を歪めた。 泣く!と不知火と君菊が青くなった時、千姫が風間を押し退け千鶴に声を掛ける。 「おかえり!千鶴ちゃん!」 にっこり、満面の笑顔で千鶴にお帰りと伝えると、ほっとしたような顔で笑う千鶴だったが、それでも先ほどの泣きそうな顔は継続中だ。 「千姫、今は俺が千鶴と話している時だ。割り込むな。」 「あのねぇ〜、話しよりまず先に言うべき事があるでしょう!」 「・・・何だ、それは。」 「・・・・こっのっ!!鈍感男!!」 要領を得ないらしい風間に、千姫の鉄拳が炸裂する、が、さすがは風間家頭領。簡単には殴らせてはもらえないようだ。 「あんた!何で避けんのよ!」 「馬鹿か、何故意味もなく俺が貴様に殴られねばならん。」 「意味ならあるわよ!だから大人しく殴られなさいよ!」 「ふざけるな・・・。」 風間と千姫が小競り合いを繰り返す横を、千鶴は無言ですり抜けていく。 それを見咎めた風間が咄嗟に千鶴の腕を掴んで引き止める。 「待て、千鶴。先ほどの質問に答えては・・・。」 風間にしては珍しく言葉を詰まらせて息を飲む。 腕を捕まれた途端、大きく振り解いた千鶴に驚いたのだ。 「・・・千鶴?どうした?」 「・・・。」 怪訝な顔で問う風間に無言で睨み返す千鶴。 端で見ている分にかなり心臓に悪い光景だ。 [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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