巡るシリーズ

巡る季節 永久に共に
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朝から私の周りは慌しい。
お千ちゃんも、匡さんも、天霧さんですらバタバタと忙しく立ち働いている。
そんな騒ぎを横目に、君菊さんは私の頬の薄く紅を入れてくれる。
「やはり、千鶴様はお肌が白いですから、この位の淡いお色がお似合いですね。」
私はお嬢様でもお姫様でもないから、様付けは止めて下さいと何度もお願いするのに君菊さんは頑なにその呼び方を変えない。
「また・・・・様はいりませんって。」
「いいえ、風間家頭領の奥方を、馴れ慣れしく呼ぶ訳には参りません。」
「私は構わないのに・・・。」
「千鶴様が構わなくとも周りが構います。気にしないのは不知火位です。」
「あぁ、あの人は、絶対気にしないでしょうね。」
出会った時から不遜な態度の不知火匡さん。私がこの里に来て、一番最初に言った事は、「名前で呼べ」だった。
その事で千景さんが拗ねた事もあったなぁと感慨に耽りながら、私に化粧を施してくれる君菊さんの白い手を見ている。
「あの、私君菊さんみたいに元が綺麗じゃないですから、そんなお化粧とか、適当でいいですよ?」
「駄目です!今日は里中の皆が待ち待った祝言なんですよ?その主役がいい加減なお化粧でなんて、私が許しません!」
「・・・・はい・・・。」
最初、この里に来た時『頭領の花嫁』として受け入れられるか凄く不安だった。
けれど、里の人は皆心から東の純血の鬼である私を受け入れてくれて、更に一番のご長寿である長老様には
「よくぞあの風間様の花嫁となる決意をして下さった〜〜」
と何故か泣かれてしまった・・・。まぁ・・・あの千景さんだし・・・。
私が思惑に耽っていると、ぐいっと顎を引っ張られる。
「やはり紅はもう少し赤味が勝つ方がいいかしら・・・。」
き、君菊さん、痛いです・・・。
「君菊!お披露目での衣装はこれで全部よね!?」
「そうです、そこの葛篭に簪と帯も入っています。念の為に確認をお願い致します。」
「君菊〜今日の酒全部どこ置くんだ〜?」
「奥の間に、お客様にお出しする分とお二人が呑む分は分けて下さい。風間様と千鶴様のお神酒は当然届いていますね?」
「君菊、祝言とお披露目での席順だが、これでいいだろうか?」
「はい、問題ないと思います。少し気温が高いですので氷の用意を多めにお願いします。」
今日の祝言とその後のお披露目には里中の人々が集まる。皆で祝ってくれるのだ。そしてその準備と進行は
全て君菊さんが取り仕切ってくれている。
「ごめんね、君菊さん。お千ちゃんの御付なのに・・・。」
「何をおっしゃるんですか?千姫のお友達の晴れの舞台!私が腕を振るわずに誰が仕切ると言うんです!」
そして物凄く張り切っている・・・。
君菊さんだけでなく、お千ちゃんも匡さんも天霧さんまで何だか楽しそうに見える。
会場の準備がほぼ終わったらしい三人が一つ所に集まり、一息吐いているのを見ると、やっぱりとても楽しそう・・・。
「ねぇ、皆?」
「なぁに?千鶴ちゃん。」
「どうして皆そんなに楽しそうなの?」
「は〜!?お前そんなもん決まってっだろが!ダチの結婚式だぜ?張り切らねぇ方がどうかしてるだろう!」
「そうですね、あの風間様がやっと身持ちを固められて残る心配は跡継ぎのみ・・・。これまでの道程を思えば・・・。」
匡さんは心外とばかりに目を剥いて怒り、天霧さんは感慨深げにしみじみと呟く。そしてお千ちゃんは目をキラキラさせて嬉しそうに笑う。
「そりゃ〜もう〜ね〜。京に居た頃から風間の俺様度は上がる一方。
せっかく千鶴ちゃんが里に来てくれたってのに、肝心な事は何一つ言わずに泣かせてばっかりだったし・・・」
「あ〜そういや〜そうだったな〜。」
「聞いた話だが、不知火が名を呼ばれる事に、悋気を起こしていたと言うのは本当か?」
「そう!そうなんだよ!あいつ俺が下の名前で呼ばれるのに自分はいつまでも苗字だから拗ねちまって!
ガキみてぇだったぜ!!」
「・・・誰が・・・ガキだと?」
「は・・・・。」
わははと大笑いする匡さんの後ろに、いつ来たのか千景さんが立っている。匡さんは口を開けたまま固まってしまい
千景さんの後ろに黒雲が見えるのは気のせいだろうか・・・。
「お、おお〜〜風間〜〜!いや〜今日はマジめでてぇな!?はっはっは〜。
あ、俺、料理の方見てくるわ。」
バシバシと千景さんの肩を叩いてわざとらしく立ち去る匡さんは、あからさまに動揺していた。
確かにさっきの千景さんは少し怖かったけど・・・。
「あいつ、馬鹿・・・。」
お千ちゃんは頭を抱えて顔を顰め、天霧さんは苦笑を洩らす。君菊さんは化粧を施した私の顔を吟味し、髪の結い上げに取り掛かる。
「千景さん、準備はもう済んだんですか?」
「あぁ、俺の支度はそれ程手間は掛らない。」
「そうなんですか、私は・・・もうしばらく掛るようです。」
「そのようだな・・・。」
それきり、千景さんは私をじっと見つめたまま動かない。あまりに凝視されているので、私は居心地が悪くなってもぞもぞしてしまう。
「・・・あの・・・千景さん?」
おずおずと問い掛けてみても、それでも何も言わずにただ私を見つめ続ける。
(や、やっぱり、お化粧なんてした事ないから、変なのかな)
「さて、出来ましたよ千鶴様?」
「あ、ありがとう君菊さん。鏡を見てもいい?」
「いいえ、その必要は御座いません。」
君菊さんはそう言うと、私が取る前にすっと鏡を持って行ってしまう。
「え・・・と・・・・。」
「さぁってと!天霧さん、ご招待した方達のご案内しに行きましょうか。」
「はい、千姫。では千鶴様、後ほど。」
お千ちゃんと天霧さんも私と千景さんを置いて行ってしまった。残された私は千景さんに凝視されたまま動けない。
「あの、千景さん・・・。」
「何だ?」
やっと返事してくれた事に安堵し、先ほどからの疑問をもう一度口にしてみる。
「そんな、目が逸らせない程変ですか?」
「何だ、それは。」
「だって、千景さん、さっきから何も言わないで見てるだけだし、そんなに似合ってないのかなと思って。」
ぼそぼそ俯きながら呟いていると、ふいに影が掛り千景さんの足元が見えた。私が顔を上げるより先に顎を掴んで上向かせると掠めるように口付けをくれる。
「もっと深く口付けたいところだが、今は我慢してやる。せっかく美しく着飾った姿が崩れてしまっては勿体ないからな。」
「へ、変じゃないですか?」
「何故。今のお前は今まで見たどの千鶴より美しい。自信を持っていい。」
「本当ですか?こんなお化粧・・・した事ないから、似合ってないんじゃないかって。」
「俺の言う事が信じられないか?似合っている。とても綺麗だ。」
「ありがとうございます。」
思わず照れて赤くなる私を、千景さんは着崩れないように優しく抱き締めてくれる。
「やっと、今日この日を迎えられる。」
「はい。」
「今日からお前は俺の物だ。」
「はい。」
「夜までは・・・長いな。」
「・・・皆さん、大勢お祝いに来て下さってますから・・・。」
「そうだな、まずは頭領としての責務を果たすか。
お楽しみは、その後まで取っておくさ。」
千景さんはそう言いながら私の頬をなぞり微笑んでくれる。私はその言葉の意味を正確に悟り、真っ赤になってしまう。
お披露目の終わった後の事を考えると少し怖いけれど、それでも今日この日を迎えられた喜びに体が震える。
「お二人さん、そろそろいいかな?」
「あぁ、刻限か。」
お千ちゃんが刻限だと告げてくる。千景さんは私の手を取って立たせると鮮やかな笑顔を見せてくれる。
「では、行こうか、我が花嫁。」
「はい、旦那様。」
私も、精一杯の笑顔で答える。
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