巡るシリーズ

巡る季節 君待つ時
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蝦夷から西の地に戻った風間は、たまたま立ち寄っていた千姫と君菊に開口一番そう命じた。
「ちょ・・・風間・・・」
「天霧!部屋を一つ設えろ。南に面した部屋がいい。ああ、中庭を見渡せる部屋があったな、あれを襖も障子も全てあの女が好みそうな物に換えろ」
「風間、一体どうしたんです。隠れ郷を住みよく整える手回しの準備はまだまだ山積みなんですが・・・」
「五月蠅い、口答えするな。不知火!貴様も千姫らと共に行って荷物持ちでもしてやれ」
「ちょっと!風間!一体何なの!?」
「ああ、それと、貴様等は暫くここで過ごせ。屋敷なら用意してやる。その方があの女も落ち着くだろう」
「あの女って・・・もしかして千鶴ちゃんの事?」
「他に誰がいる。判ったら下らん事を言わずにさっさと動け」
何の説明もなくいきなり言いたい事だけ言い終わると、風間はさっさと自室へと戻ってしまった。
残された四人は顔を見合わせる。
「って事はあれかしら。やっと千鶴ちゃんを口説き落としたって事かしら?」
「それはどうでしょう。蝦夷までご一緒しましたがそう言った話は全く出てはいませんでした」
「しかし千鶴様のご衣裳などを用意させると言う事はこちらに来られる事は確実なのでは?」
「いや、判んねぇぜ?あの風間の事だからな、千鶴にゃ何の確認もせずに勝手に話進めてるだけって事も・・・」
まさかそんな。
とは思いながら、不知火の言葉に否を唱える事も出来ずそれぞれ言いつけられた仕事に取り掛かった。
かなり個性的ではありながら優秀な面々の事。
千鶴一人を迎える用意などあっと言う間に整え、残るは本人を迎えるのみとなった頃。
「風間ぁ?いつになったら千鶴ちゃんはこっちに来るのよ?」
「そろそろ秋も深まります。今は江戸の雪村家にいらっしゃるのでしたら早めに迎えた方がいいのでは?」
「いや、っつかあいつが一人で来るのか?その辺どうなんだ?」
「まさかと思いますが新選組のどなかたと一緒ではないですよね?」
矢継ぎ早に寄せられる質問の全てを仕事の片手間に聞いている。
が、答えが返る事はなく黙々と仕事をこなす姿は若干殺気立って見えた。
「ねぇ、ちょっと!千鶴ちゃんは何時になったらこっちに来るの!?」
業を煮やした千姫がバンッと文机を叩き睨みつけると、書き物をしていた筆先が揺れた。
グニャリと歪んだ文字と共に風間の眉間にも同じように歪んだ皺が刻まれ、千姫を見上げる視線には怒りが滲んでいる。
「・・・何よ・・・」
「知らん」
「へ?」
「あの女がいつ来るかなど、知らん」
「は!?おい、ちょっと待て風間!知らんって・・・」
「俺は待つと言った。だからいつになるか知らん」
「はぁあああああ!?」
何だそれは。
開いた口が塞がらないとはこの事か。
まさに四人はあまりの事に開いた口を塞ぐ事も出来ずにむっすりと黙ってしまった風間を見守るしか出来なかった。

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