巡るシリーズ

巡る季節君と共に
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全く、この人は・・・。突飛な言動にごつんと軽く匡さんの頭を小突いてから、玄関へと目を向けると風間さんとお千ちゃんが並んで歩いて来る所だった。
「何で褒めたのに殴るんだよ・・・。」
後ろでぶつぶつ言う匡さんの言葉が耳に入らない位、見惚れてしまう。
あ〜〜・・・何か、似合うなぁ。
お千ちゃんも風間さんも、血筋がいいからか漂う気品みたいなのがあって、二人揃うと更にそれが強調されている。
そして二人共器量もいいから、美男美女で凄くお似合い。
そう思った時、ふいに風間さんが私達に気付いた。
お千ちゃんも気付いたらしく、小さく手を振りながら風間さんに何事か囁く。
すると、風間さんはふっと、凄く優しい笑顔を見せた。本当に嬉しそうに、幸せそうに、いつか蝦夷の地で見せてくれたような顔で
お千ちゃんに笑い掛けていた。
その笑顔を見た瞬間、せっかく匡さんに元気を貰った気持ちは、きゅっと締め付けられたように痛んで、沈んでしまう。
後ろにいる匡さんにはそれが判ったらしく、頭を捕まれてぐりんっと方向転換させられた。
「だ〜か〜ら〜〜。無理して笑わなくていいっつの。泣くのか笑うのかどっちかにしろって。」
「泣いて・・・ないも・・・」
は〜〜と、大きく溜息を吐きながら、あやすように頭を撫でてくれる。
「まぁ・・・他の女にあんな顔されちゃぁなぁ・・・。」
それきり黙って頭を撫で続けてくれる匡さん。
「また来ていたのか、不知火。」
気が付けばすぐ後ろまで風間さんは近付いていたらしい。耳元で聞こえる低い声に背筋が粟立つ。
「へぇいへい、来ちゃ悪いかよ?」
「悪くはないが・・・俺の妻だ。気安く触るな。」
風間さんは、少し不機嫌そうに匡さんに向かって言うと、ぐいっと私の肩を掴んで匡さんから距離を取らせた。
「まだ妻じゃないだろ?祝言あげてねぇし。」
「些細な事は関係ない。こいつは俺の女だ。」
「うわ〜〜出たよ、風間の俺様発言が。」
お千ちゃんもすぐ近くにいるみたいで、風間さんの台詞にちゃちゃを入れている。
「千姫、余計な事を話していないでさっさと用件を済ませたらどうだ。」
「言われなくても判ってます。・・・千鶴ちゃん、久しぶり!今日はね、千鶴ちゃんに・・・・。」
用があって、と続く筈だった言葉をお千ちゃんは飲み込んだ。
きっと、まだ私は泣き腫らしたままの顔だったんだろう。驚いたように呟く。
「・・・どうしたの。不知火が何かした?」
「って、おい!何で俺!?」
「うるさいっ!あんたと一緒だったんだから、あんたしかいないでしょ!?」
「ひでぇ!濡れ衣だぜ!なぁ千鶴?」
私が返事をする前に、急に顎を掴まれ上向かせられる。風間さんを逆から見上げる私の目には、不機嫌そうな瞳の色。
さっき、お千ちゃんに向けていたのとは違う、全然違う、瞳・・・。
それを見てしまった私は、更に涙が溢れるのを感じた。
目の前で泣き出す私に、風間さんの目が顰められる。
「・・・何を泣く。新選組の事でも思い出したか。」
私が今まで彼の前で泣いたのは、新選組の皆の事と、父様の事でだけ。この里に来てからも、彼等を思い出して泣いた事もある。
だからこその言葉なのに、私には酷く寂しい言葉だった。
私が心を痛めるのは、それだけだと思ってる?
私が泣くのは、それだけだと思ってる?
どうして・・・どうして他の理由だとは思わないの?
色々な思いが渦巻いて、私の涙は益々止まらない。
風間さんの眉間の皺は増えていくばかり。このままでは更に怒らせてしまう事が判ったので、私は慌てて体を離す。
「お、おかえりなさい風間さん。すぐにお茶のご用意をします。
匡さん、ごめんね?ありがとう。」
顔も見ずに踵を返し、台所へと走った。今は、彼の顔を見ていたくない。あんな目で、見られたくなかった。
「ちづ・・・」
「ちょ〜〜と待った。」
千鶴を呼び止めようとした風間を、不知火が阻む。
「・・・・何だ不知火。」
「ん〜〜?今は、そっとしといてやれよ。今お前が傍に行くのは、逆効果。」
「・・・千鶴が泣いた理由を知っているのか。」
「知ってるぜ?お前より、よ〜く知ってる。けど教えねぇ。」
不知火の挑戦的な態度に眉宇を顰める風間。それ見ていた千姫は、呆れたように間に割って入る。
「はいは〜い、今は喧嘩してる場合じゃないんじゃない?
不知火さん、千鶴ちゃんはどうして泣いてたの?私にも教えてくれないの?」
「いや、あんたには教えてもいいけど・・・自分で聞いた方が早いんじゃねぇ?
あんたになら話すだろ、この鈍感男には無理でも。」
「誰が鈍感だ・・・。」
「お前だよ、お・ま・え。」
ビシッと風間に指を突きつけ、更に風間の怒りを煽る不知火を放って、千姫は千鶴の後を追った。
「じゃあ直接聞いてくるわ、不知火さん、そこの俺様よろしく。」
「えっ!嫌だ!!」
「却下〜〜!」
「うわ・・・最低。」
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