巡るシリーズ

巡る季節君と共に
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新選組の行方を追い続け、蝦夷の地でその結末を知ってから半年程が過ぎた。
特に目的も無くやるべき事も見つけられないまま過ごしていた私を、風間さんは約束通り迎えに来た。
「いつまで待っても来ないようだからな、約束通り、迎えに来たぞ。共に来い。」
もう、充分だろう。そう言って彼は私の腕を取った。
何をすべきか、何がしたいのか判らないまま、空虚な日々を送っていた私は、その腕を振り解く事も取る事もせず
導かれるまま彼と共に、西の地へと辿り着いた。
「ここは我ら西の鬼しか知らぬ鬼の里。ここであれば人間共に邪魔される事もなく、静かで穏やかな暮らしが送れる。」
そう言って風間さんが案内してくれたのは里の中でも一際大きな屋敷。
私の為にと用意されたのは風間さんの部屋から少し離れた南向きの部屋。差し込む光が暖かく、衣装葛篭には色取り取りの着物と帯。
簪等の装飾品(高そうな)がぎっしり詰まっていた。
それを見て、本当に待ってくれていたのだろうかと思うと、少しだけ、嬉しかった。
私を待ってくれていた人は、もう誰もいなかったから。
「お前は頭領である俺の花嫁だ。鬼を率いるモノの妻として、恥ずかしくないだけの教養を身に付けて貰う。」
それから私は、毎日彼について所謂花嫁修業を始める事になった。
けれど、新選組に居た頃から散々指摘されて来ていた、私の鈍臭さは、すぐに風間さんの眉を顰めさせるに充分だったようだ。
風間さんは、いつも呆れたように肩を竦めて、最後には溜息を吐いて終わる。そんな毎日だった。
「あ〜あ・・・。今日も上手く出来なかったな〜」
「な〜に落ち込んでやがんだぁ?」
声と共にフラリと現れたのは、浅黒い肌に長髪を靡かせた鬼、不知火匡さん。
「不知火さん。」
その姿に私は少しほっとする。彼も確かに敵ではあったけれど、その人柄は何故か憎めなくて、
この里で再会してすぐ、何かと私の相談に乗ってくれたり、花嫁修業の手伝いや助言をしてくれていた。
(実際この人もソツなく何でも出来るよね)
ある意味尊敬の眼差しを込めて彼の名を呼ぶと、途端に顔を顰めて見せた。
「おいおい、最初に言っただろう?お前と俺は他人じゃなくなるんだぜ?
匡って名前で呼べよ。」
「あ、ごめんなさい、匡さん。」
私が彼を下の名で呼ぶと、満足気に頷いて隣に腰掛けた。
「んで?今日は何を落ち込んでんだ。」
「全部ですよ〜お茶もお花も、お作法も、全然上手く出来なくて、風間さんに呆れられちゃいました。」
「その風間はどこに行きやがったんだ?」
「さぁ?いつもお稽古が終わると、どこか行かれるみたいですけど・・・。」
「ふ〜ん?もうすぐ祝言の花嫁ほっぽって、どこで何してやがるんだかな。」
「・・・そうですねぇ・・・祝言、なんですよね。」
ぽつっと私が呟くと、匡さんは驚いたようにこちらを向いた。
「あ?もしかしてお前、嫌なんじゃねぇだろうな?」
「え?いえ・・・嫌・・・・ではないと思うんですが・・・」
「はぁ?はっきりしねぇなぁ?
俺は風間がお前を連れて来た時点で、お前も風間に惚れてるもんだとばかり思ったんだぜ?
だからこの結婚にも反対するつもりはなかった。
けど、もしお前がそうじゃないってなら、止めとけよ。
風間は惚れてもねぇのに添い遂げられる程甘い男じゃねぇよ。」
イライラと言葉を続ける匡さんに、私は曖昧な笑みを返すしか出来なかった。
だって、本当に判らないのだ。自分の気持ちも、彼の気持ちも・・・。
「判らないんです。一緒に来いと腕を引かれて、嫌でなかったから拒まずに着いてきました。
ここでの暮らしにも、満足しています。風間さんも・・・以前とは比べようもない程丁寧に接して下さいます。
けど・・・。」
あの蝦夷の地で交わした口付けは何だったのだろう。そう思う程、この地に来てから、風間さんは私には触れなくなった。
それ処か、微かに避けられているのでは、と思う事もしばしばあった。
「”それ”が何故なのか、判らないんです。自分の気持ちも。」
「あ〜。お前の気持ちよりまず前に、もしかして風間のヤツ、お前に何も言ってねぇのか?」
「はい?何もって、何を?」
「だから、一緒になろうとか、そういう求婚の言葉?みてぇの。」
「それは京で新選組の皆さんといる時に言われましたよ?『俺と来い、俺の妻になって俺の子を産め』って。」
きょとんとして私が答えると、匡さんは頭を掻き毟って叫んだ。
「違うだろ!そうゆうんじゃなくて、きちんとお互いの気持ちの確認みてぇの、やってねぇの?」
「お互いの気持ちの確認・・ですか・・・。やってると思います?自分の気持ちもよく判ってないのに。」
「・・・だよな・・・あの野郎。何やってんだ。」
きりっと唇を噛み締めて苦い顔で呟く。
「お前だって不安だろ?何も判らねぇ誰も知らねぇ里で、縋る想いもないまま風間と夫婦になってもそれで幸せになれんのかよ?」
「え、だって・・・だって、それ、は・・・・。」
何も判らないのもホント。誰も知らないのもホント。
私はこの里では、ほとんど屋敷から出る事もなく、知っているのは匡さんと、たまに尋ねてくる天霧さん位。
全く知らない土地に来たのだから、それは仕方無いと思う。知らなければこれから知っていけばいいのだ。
だけど、そんな事じゃなく、不安なのは、そうじゃなくて・・・。
「聞いては、いけない事のような気がして・・・私は雪村家の純血の鬼で、風間さんは鬼の血を守る為に
私を妻にしたいとそうおっしゃっていました。
だから、風間さんの気持ちとか、自分の気持ちとか、そういうのは関係ないのだと・・・。
考えちゃいけないと・・・。」
匡さんは、呆れたように大袈裟な溜息を吐いて、私の頬を大きな手で乱暴になぞった。
「不安なら、不安だって言やいいじゃねぇか。一人で泣いてんじゃねぇよ。」
「え・・・。」
私は自分が泣いている事にすら気付かないでいた。言われて初めて、頬を暖かい雫が流れていくのを感じた。
「嘘・・・何で?」
まさか泣くとは思わなかった私は、かなり焦ってしまった。
慌てて涙を拭っていると、匡さんがふと何かに気付く。
「おい、千鶴、旦那様のお帰りだぜ?・・・と、今日は千姫も一緒か。」
「え・・・ちょ、ちょっと待って。匡さん、わ、私、顔っ平気かな?」
泣いたと判らなくなったか聞いたつもりだったんだけど、返ってきたのは全然違う言葉。
「ん?大丈夫だろ?いつもみたいに可愛いぜ?」
にやりと笑ってそんな事を言うモノだから、今度は逆に真っ赤になってしまう。
「もう!何言ってるんですかぁ!」
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