短編集

七夕〜夫婦の願い〜
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随分朝早く、千鶴にしては珍しく俺より早く起きて出かけていた。
恐らく天霧あたりを誘って行ったのだろうが、主人である俺に黙って出掛けるとは仕置きが必要だと呑気な顔を捜した。
果たして広い屋敷内、それ程時を置かず見つけた我が妻は、緑の物体の中埋もれていた。
「・・・何をしている。」
「あ、おはようございます、千景さん!」
「・・・それは何だ。」
「笹です。」
見れば判る。
俺は何故それがここにあるのか聞いているのだ。
まさかとは思うがわざわざ早起きしてこれを取りに行っていたのか?
「だって今日は七夕ですから!笹飾りをしないといけないんですよ!」
いつ誰が決めた。
しかも人間共の決めた祭りに何故我が家が参加せねばならん。
「それで・・・その笹飾りをどうすると?」
「飾るんです。」
だろうな。
お前がそれを納戸の奥に仕舞いこむ等とは思っていない。
「まさかとは思うが俺にまで短冊に願い事を書けなど言わんだろうな?」
「・・・。」
相変わらず考えが手に取るように判るヤツだ。
思わず溜息も出ようと言うものだろう。
「馬鹿馬鹿しい。俺は仕事に行く。」
「あ、あ!待って待って下さい、千景さん!!」
「・・・何だ。」
「あの・・・今日の夜は、あの、お仕事は?」
「・・・今は忙しい時期だ。帰りは遅くなる。」
「そう・・・ですか。」
項垂れる顔が、まるで犬のようだな。
「ところで、お前は短冊に何と書くつもりだ?」
「内緒です・・・。」
「内緒か・・・。しかし、短冊などに願いを掛けずともお前の願いなら俺が全て叶えてやるぞ?」
「え・・・。」
妻の願いも予想が付かぬ程愚かな夫だと思っているのか?
薄っすら浮かべた笑みに無言の言の葉を乗せて、千鶴の顎を掴み上げる。
瞳に驚きと戸惑いと少しの期待を滲ませて、千鶴が小さく呟いた。
「私の、お願い事、って・・・?」
「『ずっと千景さんと一緒にいれますように』『里の皆が幸せに笑っていられますように』他にもあるのか?・・・ああ。」
俺の言葉に益々驚きを深くする千鶴に、少し意地の悪い思いで言葉を続けた。
「それから、『少し痩せますように』か?最近腰の辺りを気にしているようだからな。」
「ちがっ・・・!!千景さん!!」
「違うのか?」
「最初の二つはそうですけど!!合ってますけど!!」
「心配せずとも最後の一つも俺が叶えてやる。そうだな・・・今宵から、閨の中でな?」
掴んだ顎にそのまま口付け、間近に見た千鶴の頬は真っ赤に染まる。
何度見ても、どれだけ時を重ねても、この俺を飽きさせる事はない。
俺の願いも星に願う必要などないのだ。
願いとは、自らの手で叶えるモノ。
そして俺の願いは、我が妻と全く同じなのだから。




*****
閨の中で、激しい運動がダイエットになる、と(笑
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