短編集

相合傘〜猫と一緒〜
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「くそっ!」
いきなり降り出した雨に軽く舌打ち。
俺の勘じゃ、今日は降らない予定だった。
「くそ・・・。」
もう一度軽く悪態を吐いて、近くの軒下に雨宿りの為向かった俺の目に、鮮やかな紅の蛇腹が映る。
誰かの忘れもんか?軒下の家主のもんかとも思ったが、そうじゃなさそうだ。
俺が持つには些か派手だが拝借しちまおうかと蛇腹に手を掛けて、俺の手が止まった。
「みゃぁ・・・。」
まだ生まれたてのような子猫が、俺を見上げたから。
そいつは寒さに震えるようにか細く鳴いて俺を見上げる。
おいおい、俺はお前を拾ってやれねぇぞ?
しかし、だ。もしやこの蛇腹の持ち主はこの猫の為にこいつを置いてったのか?
誰に盗まれるか判んねぇ状況で?
「馬鹿じゃねぇの?」
「あ・・・。」
小さく呟いたと同時に、どこかで聞きなれた声が届く。
ちびこい猫を掴みながら振り向くと、案の定雪村千鶴が馬鹿面晒して立ち尽くしてやがる。
しかも、俺やこの猫よりびしょ濡れだ。
その手には何かの布やらこいつに与える為の餌らしいもん。
俺の手にある猫と俺を交互に見て途方に暮れる様は、本当に間抜けだ。
「これ、お前のか?」
「あ、はい・・・そうです・・・あの、猫が、濡れてしまうので・・・。」
それでてめぇが濡れ鼠か、笑えねぇ。
「ん。」
ぐいっと手を差し出すと、不思議そうに首を傾げて俺を見る。
っつか、こいつ俺が風間の命令で自分を攫うとかは考えない訳か?
「え・・・と?」
「それ、こいつ拭いてやる手拭いじゃねぇのかよ?それと、メシ。」
「あ、そうです、身体拭いてあげて、それでご飯と・・・。」
ちょこんと俺の足元に猫を放すと、同じ位の距離まで近寄った雪村千鶴が猫を愛しそうに拭っていく。
俺は手持ち無沙汰で、その隣にしゃがみ込んでガツガツ飯をかっ込む猫を見てた。
「ふふ、可愛いですよね。」
「あ〜・・・そうな。」
お前がな、と一瞬思った事はとりあえず内緒だ。
綺麗に拭かれて腹一杯になったらしい猫は、顎を撫でられてゴロゴロと気持ち良さそうだ。
「こいつどうすんだ?まさか壬生狼ん中じゃ飼えねぇだろ。」
「・・・そうですね・・・。」
ああ、俺も、大概甘ぇよな。
だから、んな顔すんなっつの。
ひょいっと猫を持ち上げて立ち上がると、慌てて一緒に立った雪村千鶴は俺を見上げる目を不安そうに揺らした。
「俺が飼ってくれそうなヤツさがしてやるよ。」
「本当ですか!?ありがとうございます!!」
嬉しそうに緩んだ目と口元が、何となく俺をほっとさせた。
「じゃ、俺行くわ。」
「あ!!傘!持って行って下さい!」
「ああ!?いらねぇ!んな紅いの俺が持てるか!!」
振り返りもせずに言い捨てたら、何故か雨が止んだ。
と、言うか俺の上に蛇腹が掲げられた。
「何やってんの、お前。」
「えっと・・・不知火さんは、どちらまで?良かったら、送ります!」
本当に、馬鹿かこいつ。
有り得ねぇ警戒心の薄さだな。
思わず噴出した俺に、雪村千鶴はオロオロと視線を彷徨わせた。
その腕にボスっと猫を抱かせて、代わりに蛇腹を持ってやる。
「貸せ、俺が持つ。仕方ねぇから送らせてやる。」
そっぽを向きながらでも判る程、雪村千鶴は嬉しそうに笑った。
俺はその笑顔の隣を歩きながら、風間に見付かった時にどうやってこいつを逃がすか考えていた。




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