短編集

我が心揺らめいて〜匡×千鶴
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山南さんが斎藤さんに呼ばれて出て行ってから、私はやり掛けだった繕い物を終わらせ綺麗に畳んだ。
私に与えられていた部屋を見回し、片付いている事を確認するとそっと外へ出た。
永倉さん達が出掛けて人の少ない今しかないと思った。
今なら、後ろ髪引かれる事なく新選組から離れられると・・・。そう思って外に向かった私の前に立ち塞がる影。
「漸く、自分の立場を理解したか?」
「不知火さん・・・。」
「だから俺が言ってやっただろう?ここに居てもいずれ化け物のお前は疎まれるだけだってな。」
「そんな事、無いです。皆さんは大切な私の仲間です。いつだって、私に優しくしてくれました。親切にしてくれて、守って下さいました。」
「じゃあ何でお前はこんな夜更けにたった一人、新選組から離れようとしてやがるんだ?
今はそうじゃなくても何時かそうなる、それが判ってるからそうなる前に逃げちまおうとしてんだろう?」
「止めて・・・。」
「俺達鬼と人間は所詮相容れない存在。化け物と人間は、一緒には生きてけねぇんだよ。」
「止めて・・・。」
「生きていけたとしても、鬼として存在を利用されて捨てられるだけ。」
「止めて!!」
淡々と残酷な言葉を吐き出す不知火さんに向かって、精一杯の虚勢で睨みつける。
けれど唇も手も、自分でも判る位に震えていて、何の威力もない事は判り切っていた。
それでも前を向いていなければ、何かに向かっていなければ私は立つ事すら出来なかった。
父様も居ない。新選組にも居られない。
これからは、たった一人で生きていかなくてはならないのだから、こんな言葉に傷付いて立ち止まっている訳にはいかなかった。
不知火さんは、そんな私をまるで凪いだ池のような静かな瞳で見下ろしていた。
伏見奉行所で私に向かって投げつけた鋭い視線ではなく、とても静かで、とても悲しい色の瞳。

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