短編集

鬼も走り師も走る
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年の瀬も迫った深夜。
屯所内で慌てて年賀状を書き続ける少女の姿。
「しまった〜〜〜!!幹部さん達の手伝いしてて、自分の分忘れちゃってた!」
昨日まで土方を始めとする幹部達の年賀状書きを手伝い過ぎて、すっかり自分の分を忘れてしまっていたのだ。
ガリガリ頭を掻きながら、江戸で過ごしていた頃の知人へ年賀状を書き続ける。
「う〜〜〜・・・間に合うかなぁ?」
「何がだ?」
「きっ・・・・!?」
誰も居なかった筈の室内。
突如降って来た独特の声に、思わず悲鳴が上がりかけるが大きな手の平にそれを阻まれる。
「人目を偲んでわざわざ来てやった未来の夫に、いきなり悲鳴を上げるとはどういう態度だ?」
「か・・・風間さん・・・。」
ややあって外された手と、驚く程近くにあった紅い瞳に息が止まりそうになる。
「何をやっている?」
「何って・・・年賀状ですよ!早く書かないと間に合わないんです!」
「ほ〜?人間の下らない風習に踊らされている訳か。愚かだな。」
「下らなくなんかないですよ?今までお世話になった方へのお礼も兼ねているんですから。
それに、急に江戸から京へ来てしまって、ご近所の方にご心配かけているかもしれませんし・・・。」
「それが愚かだと言うんだ。鬼の里へ来ればそんな煩わしさから解放される。
諦めてさっさと俺のモノになれ。」
「と言うか・・・風間さんは新選組の敵なんですよ?普通に訪ねて来ないで下さい。」
嘆息しながら千鶴が風間を責めるが、風間は逆におかしくて堪らないように笑う。
「ヤツらに見つかって困るのは俺ではない。見つけたヤツの命日が今日になるだけの事だ。」
それが虚勢やはったりでないと判るからこその忠告なのだが、風間は一向に聞き入れるつもりはないらしい。
「も〜・・・。とにかく!私は今日は忙しいんです!風間さんのお相手をしている暇はありません!」
「俺より過去にお前の前を通り過ぎただけの人間の方が大切だと言うつもりか・・・?」
「そ、そう言う訳じゃなくってですね、私は節目節目の礼儀とかを大切にしましょうって・・・。」
風間に反論しようと言葉を連ねる千鶴に、しかし風間はそれを許さない。
後ろから顎を引き上向かせると、自分の口でその口を塞いだ。
「ん・・・・んん!!」
「そういう礼儀は、俺のいない所で大切にしろ。
俺が目の前にいる時に、他に気を取られる事は許さん。」
「どういう・・・理屈ですか・・・。」
あまりに身勝手な言い分に呆気に取られ、最早反論する気も失せた。
は〜と大きな溜息を吐く千鶴は、文机の上にある可愛らしい包み紙に目を留めると、その中身を取り出し口に放り込む。
それを見た風間はまたもや眉間に皺を寄せ、不機嫌そうに千鶴を手元へ引き寄せた。
「おい、今何を食った?」
「へ?何って・・・飴玉ですけど?あ、風間さんも食べますか?
今日の昼間に近藤さんが甘い物は疲れが取れるからと下さったんです。」
風間の不機嫌さに微妙に気付かない千鶴は、カサカサ包み紙を開けてあ〜んと風間へ差し出す。
目の前に差し出された妙に彩り豊かな丸い物体に、風間の目が更に不機嫌に曇る。
「これは・・・俺にどうしろと?」
「ですから、食べたいんですよね?どうぞ、一つ差し上げます。あ、もしかして青い方がよかったですか?」
色が気に食わない為に機嫌を損ねたと勘違いした千鶴。
先程とは違う飴玉を取り出そうとして強く手首を捕まれる。
「この俺がそんな甘ったるいモノを食うと思うのか?
俺が言っているのは、飴など食っていては、俺と口付け出来んと言う事だ。判ったらさっさと食ってしまえ。」
再び自分勝手な理屈を押し付ける風間に、少しずつ千鶴も諦めの境地に立ちつつあった。
「え〜と・・・。」
「何だ、何か文句でもあるか。」
「いえ・・・何もありません・・・。」
「では年賀状などに構けていないで俺の相手をしていろ。飴は食い終わったのか?」
「さっき食べたとこですよ!?そんな早く食べれません!」
「・・・そうか・・・。なら、俺が手伝ってやろう。」
「へ・・・?」
きょとんと千鶴が目を見開く間もなく、風間の舌が口の中に侵入してくる。
そしてまだ大きいままの飴玉を噛み砕いて細かくすると、瞬く間も無く全て舐め終えてしまう。
「・・・風間さん・・・舐めるの早っ!」
「・・・甘い・・・。」
「いや、だって、飴ですから・・・。」
「同じ甘いなら、俺はこっちの方がいい。」
にやりと口角を上げて笑うと、風間は千鶴の頭を掴んで再び口を塞ぐ。
息も止まりそうな激しい口付けに千鶴が耐え切れなくなる頃、やっと口を離した風間は紅い瞳を輝かせて千鶴を強く抱き締めた。
「お前の心を占めるのも、お前の全てを塞ぐのも、俺だけでいい。俺以外に心を砕くな。いいな?」
どこまでも我が侭で身勝手な理屈を押し付ける風間。
尊大過ぎるこの鬼に、既に心を占められた千鶴は、風間の言う通り全てを塞がれたいと今宵も身を委ねるのだった。



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