短編集

鬼ごっこ 〜微グロ表現注意〜
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「きゃあああああああああああ!!」

ガバリと跳ね上った千鶴はビッショリを汗を掻き荒い息を吐く。
一瞬自分がどこにいるか判らず視線を彷徨わせ、そこが見なれた自室である事にほっと息を吐いた。
「千鶴?どうした?」
先程の悲鳴が聞こえたのだろう。
左之助が襖の向こうから声を掛けてくる。
「いえ・・・何も・・・何も、ないです・・・」
そう、何もない。
目が覚めて、いつもと変わらない部屋の中。
外は朝の陽が上り汗ばむ程だと言うのに、千鶴は歯の根が噛み合わない程の寒さに震えていた。


始まりは一月程前。
あの池田屋で金の髪、紅の瞳のあの男に出会ったあの時。
射竦められ、縫いつけられたように動けなくなったあの夜。
夜毎訪れるそれは、あの気配に似て・・・。




「そんな訳ない・・・」
たった一度会っただけの男が、夜毎夢に現れるなど。
有り得ない、と言い聞かせるにはあの声は生々し過ぎた。
「千鶴、大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ、平助君」
青い顔をして日々やつれていく千鶴に皆も心配気な視線を寄越すが、何もないと被りを振る以外ない。
そうしてまた夜の帳が闇を連れてくる。

眠りたくない、と。
願えば願う程意思に抗い千鶴は深い夢の世界へと堕ちていく。




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