短編集

刹那恋咲(セツナレンサ)
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一方、その風間が見ていた通りではとある店の前で少女と見紛う愛らしい見た目の少年が佇んでいる。
何かを熱心に見ている少年の真後ろに気取られぬよう近寄った風間は、息が掛かるほど耳元で小さく囁いた。
「何を見ている?」
「き、きゃあああああ!!」
「・・・五月蝿い・・・」
自分で驚かせておいてその悲鳴の大きさにうんざり眉を寄せ、どこか楽しげに笑う風間は逃げ腰になる少年の肩を引き寄せ唇が触れそうな距離で目を覗き込んだ。
「質問に答えろ、何を見ていた?」
「か、かかか、風間さん!!?どうしてこんな所に・・・!」
質問に答える気が無いのか動転しているのか、少年は赤くなったり青くなったり目まぐるしく表情を変えていく。
(金魚か鯉のようだな)
口をぱくぱくさせる様はまさに餌を求めて水面に顔を出す鯉のようだが、さてこの場合の餌とは一体何か?
ぐるりと周囲を見回した風間は少年を待たずに自らその答えを導き出した。
「なるほど・・・形は男でも女であるのは変わら・・・ぬぐっ!?」
「ちょ・・・風間さん!!」
風間にしては珍しい奇声を上げたのは、台詞の途中で少年の手がその口を塞いだからだった。
そのまま引き摺られ物陰に隠れると、漸く離れた手を握り返しそのまま口付け意味有り気に口角を吊り上げる。
「お前にしては大胆な。それ程俺と二人きりになりたかったか?お望みとあればいくらでも逢瀬の機会を作ってやるぞ?」
「違います!あんな所で私が女だなんて言わないで下さい!私は新選組のお使いで来ているんですよ!?」
鬼の頭領である風間にも臆する事なく怒鳴りつけるのは、雪村千鶴。
本人も言っている通りれっきとした女であり、東の鬼の純血な娘。
鬼の一族を絶やさない為、純血を守る為に風間が花嫁にと望む娘。
最初はその血筋だけでいいと思っていたが、ここにきてその考えが若干変わりつつある事を風間は自覚していた。
「そう怒る事はあるまい?俺の目の前で物欲しそうに突っ立っている方が悪い」
「なん・・・!」
ころころとよく変わるその顔は、絶世の美女とまではいかないが大きな瞳が愛くるしい。
何より自分を真っ直ぐ見返す意志の強さがいい。
見た目だけ極上で意のままになる女はもう飽きた。
今は男装しているがまともな格好をすれば見違える程美しくなるのも確認済みだ。
「そういえば、あの時の借りをまだ返してもらっておらんな」
「あの時のって・・・あ!あれは!お酌して差し上げたじゃないですか!!」
「阿呆か、お前は。奴等を強襲しようと言う計画を阻止する為に、俺がどれほど手間を取らされたか判っているか?
それを思えば数回酌をされた程度では割りに合わん」
軽く唇を噛み思案顔になるのは千鶴自身もそうと思うからだろう。
実際は大した手間でも無かったが、わざわざそんな事を教えてやる義理もない。
恩があると思わせておけば当分の暇潰しにはなるだろう。


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