短編集

ムカつく男
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むかつく男。
無駄に自尊心だけは高い。
けれどそれに見合うだけの強さを持つ
尊大な男。
千鶴ちゃんを守る為に、
この男の元に来ただけなのに、
なのに、何故こんなに胸が焦がれるの・・・。

「何を考えている。」
情事の後で、億劫そうに着衣を整えるのは風間千景。西の鬼の頭領。
東にも西にも属さぬ京の古き鬼の血を引く私を抱いた後であっても、この男の不遜な態度は変わらない。
情事の最中でも、その瞳に熱を帯びる事はない。
「別に・・・。」
私はダルい体を起こし、生まれたままの状態で窓辺に寄る。
「今日は、月が澄んでいるわね。」
私の言葉に風間は空を見上げる。
「ああ、そうだな。」
特に興味もなさそうに頷いて、私の体を一瞥すると、先ほど自らの手で脱がせた着物を放ってくる。
「さっさと着ろ。」
ああ。本当にどこまでもムカつく男。さっき抱いた女に、少しの情も見せないそんな冷たい男。
「あ〜あ、千鶴ちゃんに会いたいなぁ。」
ぽそりとつぶやきながら着物を着る。
翌日、鬼と呼ぶには相応しくない同胞。東の鬼の血を引く千鶴の顔を見に東北まで押し掛けた。
「千鶴ちゃん!。」
「お千ちゃん!?」
私が声を掛けると、彼女は驚いて声をあげるが、すぐに笑顔になって私を歓迎してくれる。
「久しぶり、元気だった?藤堂さんも。」
「おぉ〜元気元気って、事もないかな?」
「どっちなの。まぁいいわ、今日はただ千鶴ちゃんに会いに来ただけで、用がある訳じゃないの。」
「そうなの?でも嬉しいよ、ゆっくりして行ってね?」
「うん、ありがと・・・。」
「何だ?何か、お前が元気なくね?」
「ほんとだ、お千ちゃん、何かあったの?」
「ん?ん〜何かって訳じゃないんだけどね。風間がね」
「え!?風間さんがどうかしたの!?」
私は千鶴ちゃんを諦めさせる代わりに風間の元へと言ったようなモノだから、こんな事を言えば千鶴ちゃんが気に病むのは判り切っていたけど・・・。
他に誰に言えばいいか判らなかったから思わず訪ねてしまった。
君菊に言えば当然風間に食ってかかるだろうし、天霧さんも不知火も当てにはならないし・・・ともすれば、ここしか吐き出す場所が無かった。
「何かね。ムカつくのよ。」
「・・・・・はい?」
「あいつがムカつくのなんか最初っからじゃん。」
藤堂さんが今更?と言う顔をしている。そう。最初から、会った時から不遜な男だと思っていたし、実際そうだった。
私はそう付け加えて、でもね、と話出す。
「何だか、最初の頃とはムカつき方が違うと言うか・・・。こう・・・。」
それまで黙って聞いていた千鶴ちゃんが、首を傾げて私の言葉に助け船を出してくれる。
「胸がモヤモヤして、ぎゅってなる感じ?」
「あ、そうね、そんな感じ。」
「例えばそれってどういう時なんだよ?」
「だいたい同じよ、情事の後。」
あっけらかんと言う私に若い二人は瞬間的に顔を真っ赤にする。
「あらら、もう少し言葉を飾った方が良かった?」
「イエ、ダイジョウブです・・・・。
「棒読みになってるわよ、千鶴ちゃん。」
「そ、それってさ、あいつが、その。下手・・・・とかじゃなく?」
「それはないわ。満足させて貰えてるわね、十分に。」
「あ、そうですか。」
「そういう千鶴ちゃんは満足させて貰えてるのかしら?」
「「え”!?」」
再び二人同時に顔を赤めてしまう。
とっくに体を重ねてるだろうに、きっとこの二人はいつまで経ってもこんな風に初心なままなんだろう。
けれど、藤堂さんがそのまま更に顔を赤くしてそっぽを向くのに対し、千鶴ちゃんはぽんっと手を打って顔を輝かせる。
「あ!そっか、判った!お千ちゃん、きっと風間さんの事本当に好きになりかけてるんじゃないかな!」
「「は〜〜!?」」
藤堂さん、はもったわね。
「無い無い絶対無い、有り得ないわよ!」
「そうだぜ千鶴〜。あの風間だぜ?」
「どうして?その・・・情事の後にムカつくのって、女性からしたら、その・・行為に満足出来なかったか、もしくは
それが虚しく感じた時だけじゃないかなぁ?」
「え、そなの!?千鶴もムカついてたりする!?」
千鶴ちゃんの発言に慌てた藤堂さんが思わぬ失言を溢し、千鶴ちゃんの平手を受けている間、私は千鶴ちゃんの言葉を反芻してみる。
「確かに・・・・行為には満足してるわ。ただ、私がムカつくのは、その後あいつがさっさと帰って行く事に対してな気がする・・・」
「ほら〜!やっぱりそうだよ!きっと、何度も肌を合わす内に好きになっていってるんじゃないかな。
だって、あんな風に自分を助けてくれた人だもの。好きになっても全然おかしくなんてないよ!」
「そう・・・かもしれない・・・。」
「マジで!?女って判んねぇ〜〜!!」
「平助君は男の人だから、女心が判んなくてもいいんだよ。」
「でも千鶴ちゃんの心は判って貰わないと困るんじゃない?」
「そりゃ困るよ。でも大体判るし!千鶴は大抵俺と同じ事思ってるんだからさ。」
「・・・・・ご馳走様・・・。」
自分で言っておいて馬鹿らしくなってきたわ。
でも、おかげでスッキリしたかも・・・。
「ありがと、千鶴ちゃん、かなりスッキリしたわ。」
「もういいの?」
「ええ、もう大丈夫よ、ありがとう。」
「ううん、また、何かあったら・・・何もなくても来てね?」
「もちろん、次はあいつも連れてくるから、藤堂さん手解きしてもらったら?」
何のだよ!?と真っ赤な顔で怒鳴る藤堂さんと柔らかく微笑む千鶴ちゃんに背を向けて、私は西へと戻る。
きっと今ごろ消えた私に立腹してるだろう厚顔で尊大な男の元へ。
「・・・なぁ、千鶴。」
「なぁに?平助君。」
「さっきの・・・。お前もやっぱムカついてたり、する?って質問なんだけど・・・。」
平助は、恐る恐ると言った感じで千鶴を伺い見る。それを見た千鶴は、一瞬意地悪心が芽生えかけるが、先程の千姫を思い出し思い直す。
「大丈夫だよ、私はいつだってどんな時だって平助君には大満足だよ!。」
にこっと笑って手を握り合う二人には、きっと千姫の悩みは一生わからないかもしれない・・・。

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