山崎 烝〜桜結びにて公開作品〜

最後の景色
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はらはらと・・・零れる雫を勿体無いと思う。
あまりに綺麗なそれは、地面に吸い込まれては消えて行く。
俺は、それを止めたくて手を伸ばすけれど
血に塗れた手でそれに触れるのは躊躇われた。
「泣かないでくれ。」
「泣いてはいません。」
こんな時ですら、彼女は強気に嘘を吐く。
ではその瞳から零れる雫は何だと言うのか。
消え掛けた俺の命を零さぬように、彼女が代わりに落とす命だとでも言うのか・・・。
「泣いては、いません。」
彼女はもう一度力強く頷くと、俺の手を握り締める。
俺は、彼女の手を握り返す事すら出来ずに、ただ謝るしか出来なかった。
「すまない・・・。」
はらはら零れる雫を受け止めたいのに、触れられない。
「すまない・・・君を、置いていく。」
「・・・や・・・嫌・・・・。」
ただ謝るしか出来ない俺に、彼女は被りを振る。
駄々を捏ねるように頭を振り続ける彼女の頬を、雫が伝う。
「本当に、すまない。君を置いて逝く俺が・・・君に想いを伝える事を、許してくれ。」
「・・・山崎さん・・・・。」
「ずっと、愛していた。恐らく、初めて君を護ったあの夜から。君だけを、護りたいと思った。
ずっと・・・・護り続けていけると、思って、いたのに・・・・な。」
くっと胸に痛みが走り、俺の口から鮮血が溢れ出す。
「や、嫌!聞かない!聞きたくない!そんな・・・・最後の言葉みたいに・・・!!」
尚、頭を振りながら彼女は俺の手を掻き抱く。
ああ、彼女は、こんなにも暖かい。
「最後、だから、聞いてくれ。俺は・・・君が好きだった・・・今まで、ずっと。
きっと、これから・・・・も・・・愛し続ける・・・・」
「いや!!」
悲しみに歪んだ瞳。それが最後に見た彼女にしたくなくて、俺は精一杯笑う。
「笑って、くれないか。俺は・・・君の笑顔、が・・・・好きだから。」
俺が切れ切れの言葉で伝えると、彼女は一瞬顔を歪めて、笑顔を作る。
はにかんだような、怒ったような、笑顔。
俺の好きな、彼女の顔。
「好きだ・・・千鶴。ずっと、笑ってくれ。俺が、安心していられるように・・・ずっと、見ているから。」
だから笑って・・・。
この言葉を最後に、俺の意識は途絶えた。
最後に見たのは愛しい人の、綺麗な涙と、儚い笑顔。
君を置いて逝く俺だけど、最後の我侭を聞いて欲しい。
どうか幸せに・・・。
その笑顔が曇る事のないように・・・。
俺は、もう傍にはいられないけれど・・・。
愛しているよ、初めて護りたいと想った人。


end
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