山崎 烝〜桜結びにて公開作品〜

空に溶ける言の葉
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空に溶ける言の葉


sideー山崎


暗闇の中、疲れた体を引き摺って屯所へと戻る。
深夜、隊士達は寝静まっており、静けさだけが広い屯所に残る。
俺はいつものように副長の下へと向かい、数日前依頼されていた調査の報告を終える。
「ご苦労だったな。当分厄介な仕事はねぇ筈だ。ゆっくり休んでくれ。」
「はい、ありがとうございます。では、失礼します。」
一礼して退室すると、俺はそのまま自室に向かう。
だが恐らく俺は真っ直ぐは戻らない。
いつもなら、そろそろ彼女が現れる筈だ。
諜報活動中、いつも着用する忍装束の頭巾を剥ぎ取り音も立てずに歩く俺の前に、やはり彼女は現れた。
「おかえりなさい、山崎さん。」
「・・・ああ。」
彼女はいつもこうだ。
どんなに遅くても、いつ帰って来ても、俺が報告を終えると必ずやって来てこの言葉をくれる。
「いつも言っている事だが、何もこんな遅くまで待っている必要はない。」
「はい、でも、私が山崎さんにおかえりなさいを言いたいから。」
「・・・その言葉にそれ程意味があるのか?」
「あります、私にとっては・・・大切なんです。」
「そうか・・・俺には理解出来ない。」
「あの・・・迷惑ですか?」
俺が素気無く答え続けると、彼女は必ずこうして不安そうに俺の顔を伺ってくる。
迷惑などでない。寧ろ彼女からの言葉を毎回待っている自分がいる。
「いや・・・しかし君も疲れているだろう。わざわざ俺などを待っていなくても・・・。」
「私が待っていたいんです。いつも・・・山崎さんの仕事は決して安全ではないです。
待っている間、もしかしたら敵に遭遇して戦いになるかも、大きな怪我をしているかも・・・。
いつもいつもそうやって不安なんです。
だから無事にお帰りになると嬉しくて、安心したいから、お顔を見たくて・・・。
ご無事にお帰りになって良かったと、思うから。」
正直、驚いた。
いつも俺が仕事に出る前、泣きそうな顔で『行ってらっしゃい』と、見送ってくれていたのは
不安がっていたのかとが合点がいった。
「そう・・・か。」
「はい、あの、いけませんか?これからも、お待ちしていては・・・。」
「いや・・・。いや、構わない。俺も・・・安心、するのかもしれない。」
いつもいつも、どんなに危険な任務でも、どれ程疲れていようとも、此処へ帰ってくれば君がいる。
どんなに危険な任務に赴く時でも、君の泣きそうな顔を見れば、必ず帰って来ようと思える。
「君が待っていてくれる事に、君が此処にいる事に。」
不安そうに握り締める彼女の手に、自分のそれを重ねる。
「君が居てくれるから、俺はどこにでも行ける。君が待っていてくれるから、俺は必ず帰って来れる。
だから待っていてくれ。これからも。
俺は、必ず君の元へと帰って来るから。」
しっかりと、彼女の目を見つけて、俺は誓う。

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