2/7ページ目 〜過去1〜 俺が千鶴に始めて会ったのは今から数年前。 年号が慶応に変わって、夏が始まろうとする頃。 その頃の俺は、天霧、不知火と共に薩摩藩に協力し、会津、土佐、長州等の情報収集、果てはその抑制に動いていた。 そんな中、薩摩に身を寄せる雪村と言う名の蘭方医に会い、ヤツが育てた娘が東の純血の鬼である事を知った。 鬼の血統を守る為、貴重な女鬼を見定める為、その娘が身を寄せているという新選組屯所へと奇襲を掛けた。 その時の印象は、何も知らぬ無力な小娘と言う認識しか無かった。 娘を手に入れるより、まがい物の鬼を生み出す新選組と言う組織に興味が沸いた。 更に言うならば、娘に手を出せば、必然と新選組が護ろうと俺達に対峙する事実も面白いと思った。 どこまでも己の忠義や誠に縛られながら、時代の流れに飲み込まれようとする男達の行く末を面白いと思った。 千鶴の事は、ただ奴らに関わる過程のついでの遊びのようなモノだった。 それが決定的に変わる事になったのは、新選組が鳥羽伏見で敗走する中、仲間と逸れたらしい千鶴を拾ってからだ。 「私も一緒に連れて行って下さいませんか?」 今まで自分が受けてきた仕打ちを忘れた訳ではないだろうに、この娘は俺を恐れる風でなく、当たり前の事のようにそう言ったのだ。 俺は勿論断るつもりで居た。 戦乱の中、新選組に属していたこいつを連れて、もし薩摩の人間がこいつを覚えていれば面倒な事になるのは目に見えていた。 しかし、このまま江戸へと向かい、奴らに出会った時、護ると言ったこの女を救ったのが、奴らが敵と見做した俺だと知れた時の 奴らの反応を見たいと言う欲求にも抗いがたかった。 だから江戸への同行を許したのだ。 道中では、特に気にかける事もなく、先を目指した。 千姫に頼まれて同じく同行する天霧は、度々千鶴を気にかけていたが、俺はほとんど話しかけるでなく、背を向けたまま歩を進めていた。 途中、山中で野宿した際、すぐに戻るからと、俺達から離れた。 すぐと言うにはなかなか戻ってこない事は、少し気にはなったが天霧が様子を見に行こうとする頃には戻って来た。 「どこへ行っていた。お前がどこへ行こうが勝手だが、あまり動き回られては迷惑だ。」 俺が冷たく言い放つと、怒る素振りも見せずにただ『すみません』と謝るのみだった。 こう言った事が、江戸に着くまでに度々あった。 一度周囲を見回っていると俺達から逸れた千鶴を見つけてしまった。 千鶴は、何をするでなく、ただ空を眺めているだけだった。 泣いているのかと、思ったが違うようだ。 ただ空を、いや・・・空を見つめているだけのようだった。 その瞳には、星も月も木々も、何も映していない、恐らく新選組の姿を追っているだけだと想像できた。 愚かな女だと思う反面、胸に小波が沸き立ったのも事実だ。 「千鶴。」 空を見つめ、今はそこに居ない新選組に思いを馳せる女を呼ぶとびくりと肩を震わせゆっくりと振り向いた。 「あ・・・・・・風間さん、でしたか。驚きました。」 誰だと思った? 思わず口を吐いて出掛けた言葉を飲み込んだ。 馬鹿らしい。 こいつが誰を思っていようが、俺には関係ない事だ。 「早く戻れ。もう江戸が近い。新政府の奴らに見付かっても知らんぞ。」 「はい、ありがとうございます。」 何故そこで礼を言う?俺はお前が見付かれば面倒なだけだ。礼を言われる筋合いなどない。 なのに、何故俺に笑い掛けるこいつに、胸が騒めく・・・。 江戸に着いてすぐ、新選組の動向を調べた俺は、包み隠さず千鶴に語った。 奴らが再び敗戦した事。 土方歳三他の隊士が甲府に向かった事。 既に千鶴が懇意にしていただろう隊士数人は、命を落とした事。 途中、泣くのかと思った。 だが千鶴が泣く事はなかった。あの夜、空を見つめていたように、目の前にいる俺が見えていない瞳。 恐らく甲府へと向かった仲間へ思いを馳せる、瞳。 「風間さん。私はこれから甲府へ向かいます。今までありがとうございました。」 千鶴は、目の前にいる俺を見る事もなくそう告げると、俺の前から姿を消した。 これで重荷が無くなった。 俺一人であれば、危険のない旅路。それを新撰組を追うあの女を連れていると言うだけで、新政府の連中に狙われる危険を負ったのだ。 千鶴が消えたとなれば、薩摩に属する俺に敵はいない。 ・・・筈なのに・・・。 「・・・どうも・・・気分が悪い。」 俺は理由の判らない不快感に眉を顰めながら、これから己の成すべき事を模索していった。 [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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