2/2ページ目 有り得ないだろう・・・。この女は俺に何をされて来たか忘れたのか? 「馬鹿か、お前は。俺が誰か忘れたか。」 「憶えてますよ、風間千景さんでしょう?忘れないです、そんな変わった名前も、その顔も。」 「そうか、憶えているなら話は早い。俺は小汚い畜生に関わる程暇ではない。 迷惑だ。俺の言った言葉が判ったか?理解したなら手を放せ。俺はもう行く。」 俺の問いに場違いな答えを返す馬鹿には、これ位でちょうどいい。 これで解放されると清々すれば、俺の袖は今だ握られたまま・・・。 「・・・おい。」 「だって、どうしたらいいか、判らないんです!怪我も酷いし・・・死んじゃったら、どうしよう!?」 勢いよく、大きな目から涙が溢れ出した。 一度溢れた流れは止まる事を知らないように止め処ない。 俺は、再び軋む胸の奥に気付く。 ・・・嫌な感じだ。 無言で猫を鷲掴むと、そのまま川で乱暴に洗う。鳴き喚く猫を端で見ながら雪村千鶴は青い顔をしているが知った事ではない。 「あの・・・そんな乱暴にして、大丈夫なんですか?」 「鴉に食われるよりはマシな扱いだろう。」 綺麗になった猫を、雪村千鶴に向かって放り投げ、俺は持っていた傷薬を渡す。 「これを塗っておけ。骨にも若干異常があるようだが、歪みは修正しておいた。何かで固定しておけば大丈夫だろう。」 「あ、ありがとうございます!」 「ふん。これで俺に借りが出来たな?どうやって返すつもりだ?」 にやりと笑いかけてやれば、困ったように顔を顰める。 「本当ですよね、どうしましょう・・・?」 そこで俺に聞くな。尽く俺の予想を裏切る・・・面白いヤツだ。 「知るか。自分で考えろ。」 「う〜〜ん・・・。」 俺の言葉に真剣に考え込む姿は、実に面白い。 純血の女鬼と言うだけで興味があった。 新選組という組織にいる事で、興味はこの女から新選組へと移った。だが・・・。 こういう面白さは悪くない。 予測不能な反応は、不快なモノではない。 「無理矢理呼び止めて借りを作ったんだ。並大抵では、割りに合わんぞ?」 「うぅ・・・。あ!」 意地悪く言い募る俺に、雪村千鶴は顔を上げる。 「今度!この子が元気になったら一緒にお花見に行きませんか?私、お弁当作りますよ!」 「・・・は?」 「この子が元気になる頃には、桜も満開ですよね?美味しい物沢山作りますから!」 鬼の頭領であるこの俺に、猫と花見に行こうと言うのか? 呆れたと言うよりあまりに単純な発想に、思わず苦笑が洩れる。 「・・・くっくっく。この俺に、花見に行こうと誘うのか。 お前を攫うつもりの鬼に?」 「あ・・・。」 自分でも間抜けな提案だと思ったんだろう。 口に手を当てて間抜け面を晒す雪村千鶴は、俺が思っているより面白そうだ。 「まぁいい。お前とその猫との花見も、退屈凌ぎにはなるだろう。 楽しみにしてやってもいい。」 「本当ですか?良かった〜」 こいつは本当に俺が自分を攫うつもりでいる事を忘れているんだろう。 無邪気に笑う様は無用心この上ない。相手が俺でなく不当な輩であればどうするつもりだ。 柄にもなく、心配などしてから、俺は自嘲する。 それもいい。 たまには、こんな茶番に付き合うのも悪くない。 「ではな、雪村千鶴。花見を楽しみにしていよう。」 「あ、ありがとうございました!!」 思い切り頭を下げて笑う雪村千鶴に背を向けて、俺は本気で花見に行くのが楽しみな自分に 驚きながら、興味を覚えていた。 小春日和が鬱陶しい程の午後。 新しい玩具を見つけた俺は、今度会う時はどんな一面が見られるのかと、顔を綻ばせながら塒へと戻った。 [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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