風間 千景〜桜結びにて公開作品〜

小春日和の憂鬱
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春の陽気も麗らかな午後。
どこに行くともなし、散策するだけだった俺の耳に、その声は届いた。
「いや〜〜〜!!駄目!あっち行ってっば!!」
どこかで耳にしたその声の主は、かなり切羽詰まっているのか俺が背後から近付いても、
全く気付く素振りすら見せない。
何をやっているのかと見上げれば、木の上には薄汚れた子猫が一匹。怪我をしているんだろう。
左足を引きずり、その血の匂いに誘われてか鴉供が上空を徘徊している。
先ほどから棒キレを振り回す雪村千鶴は、どうやらその子猫を守ろうと鴉を追い払っている最中らしい。
が、いかんせん奴らは頭上高い空の上。地面でぴょんぴょん飛び跳ねた所で、届く筈も、威嚇となる筈もない。
「も〜〜〜!!あっち行ってよ!向こう行って!」
そろそろ棒キレを振り回しても効果がない事に気付きだしたのか(気付くのが遅過ぎだ)
子猫の傷口を抉るように突付いている鴉に涙声で訴え始めた。
ここから見上げる限りでは、子猫の足の傷はかなり酷い状態のようだ。
あのまま放っておけば、鴉に食われるまでもなく、生き絶えるだろう。
それも弱肉強食の世界と、溜息を吐くのみだが、この女は諦め切れないらしい。
俺は放って置く事に決めた。
こういう状態の女に近付くのは、ろくな事にならないと経験上知っている。
君子危うきに近寄らず・・・。
どこか胸の奥で、軋んだ痛みを感じた気がしたが、それは錯覚だと己に言い聞かせ
無言のまま踵を返そうとした・・・のだが・・・。
もうほとんど泣きながら周囲に救いの目を求める雪村千鶴と、目が合った。
あれをどう表現すればいいのか・・・。
驚愕と、恐怖と、少しの・・・安心?
判らない。何故この女が俺を見て安心する事がある。
少なからず憎まれる程度の行いをして来た自覚はあるが、慕われる覚えなど更々ない。
なのに・・・。
「か、風間さん!!」
必死なこの女は気付かないのか敢えて考えないのか、俺の方に駆けて来る。
「お願いします!助けて下さい!!」
・・・馬鹿だろう、こいつは。
どこの世界に自分を攫おうとしている男の元に、自らのこのこと近付いてくると言うのだ。
「猫が・・・!あ、子猫なんですけど、怪我をしてて!樹の上にいるんです。
私登れなくて・・・。でも、早くしないと鴉が・・・!!」
俺のそんな思惑等、気付いているのか居ないのか、必死な雪村千鶴は早口に捲し立てる。
少々(かなり)面倒だったが、とりあえず話は聞いてやる。
ぼろぼろ泣きながら訴える様は面白い。が、遅かったようだ。
「鴉に食われる、か?あんな風に?」
俺が子猫の居る樹の方をゆっくり指差せば、雪村千鶴も恐る恐る振り返る。
「・・・!!」
雪村千鶴が声にならない叫びを上げるのと、子猫を咥えた鴉が飛び立つのはほぼ同時。
「あ・・・!駄目!!返して!返してよ!!死んじゃうっ・・・死んじゃうよ!!」
空高く舞い上がった鴉へ、それでも諦めきれないのか必死に叫ぶ。
だが畜生にこいつの願いが届く訳もない。
「う〜〜〜・・・・。」
唇を噛み締め、空を見上げて泣く様を見ている内に、先ほど感じた胸の奥の軋みがまた頭を擡げた。
その感覚にイラついた俺は、手近な石を拾い上げ、上空を旋回する鴉目掛けて放り投げた。
画して小粒な石は鴉の羽に命中。
痛みか驚きからか、嘴を開けた拍子に子猫は解放された。
・・・が、それは自然の法則に逆らわず、地面に真っ逆さまだ。
あのままでは、鴉に殺される前に拉げた死体となるなと、思い、ついでにそうなった際の雪村千鶴の泣き顔まで浮かんだ。
「面倒な・・・。」
俺は深い嘆息を洩らし、一気に子猫の真下へと加速し、片手でそれを受け止めた。
「風間さん!?」
後ろでは、再び驚愕の声を上げる雪村千鶴。
「子猫・・・!!大丈夫でしたか!!??」
ゆっくり振り向き無言で子猫を差し出すと、怪我の酷さに一瞬息を飲むが、ちいさな腹が上下しているのを見て
明ら様にほっと息を吐いた。
「・・・・よかった・・・。生きてる。」
俺はそのまま立ち去ろうと再び踵を返すが、袖に何かが引っ掛かり動けない。
まさかと言う思いに振り返れば、信じられない事に雪村千鶴の手が俺の袖口を掴んでいる。
「・・・助けて下さい。」
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