山南さん捏造ルート

春風に咲きさそはれて山桜
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うだるように暑かった夏が過ぎ、秋の気配も濃くなりつつあるこの頃。
私は一人、自室で薬の調合をしていた。
池田屋騒動で負傷した、永倉さん達の為の傷薬や痛み止め。
父様程ではないにしろ、蘭方医の娘としての知識を総動員して作った薬は、それでも少しは効能があると自負している。
出来上がった薬を秤に掛け、少しずつ分けて行く。
全て分け終えた頃、ドタドタと廊下を歩く足音が響いてくる。
「っいよっす!千鶴〜〜薬出来たかぁ」
がらりと襖を開け、勢いよく入って来たのは永倉さん。
「新八・・・お前、女の部屋に夜いきなり押し掛けて、そりゃねぇだろうよ」
呆れたように苦笑いをする原田さんも後ろにいるようだ。
「いいんですよ、原田さん。
お薬、丁度出来たとこです、永倉さん。」
どうぞと先程出来たばかりの包みをいくつか渡す。
「わりぃなぁ、良順先生のも効くんだが、俺はこっちのが飲み易いんだよな」
「ホントですか?
よかったです。ありがとうございます。」
「礼を言うのはこっちの方。ホント助かるぜ。新八は我が侭なお子様だからな」
にやっと笑いながら原田さんは永倉さんの頭を叩く。
「んだぁぁ!!頭を叩くな!これ以上馬鹿になったらどうしてくれる!」
「大丈夫だ。もう、救いようがねぇ程、馬鹿だから。」
「何だとぉぉ!?」
目の前でじゃれ合う二人に思わず笑みが零れる。
「お二人共、じゃれ合うのはいいんですが、もう私の部屋を破壊しないで下さいね?」
以前、同じような状況で襖と障子を尽く破壊し、何故か私までが土方さんからお小言を頂く羽目になったのは、まだ新しい記憶。
その私の言葉に、はっとしたように二人の動きが止まる。
「やべぇ・・・。また自腹で直す羽目になるとこだったぜ。」
「おぉぉぉ・・・。ホントだな。何か壊す前に、出てくか。」
「それがいい。」
頷きあって出て行く二人に、聞きたかった事を思い出し呼び止める。
「ああ!お二人共!!あの人は、今どちらに?」
私の声に、二人の足がピタリと止まる。
「あぁ・・・・」
「あの人なら、部屋に居るんじゃねぇかな。」
言葉を濁す永倉さんに対し、原田さんが少し複雑そうに教えてくれる。
「ありがとうございます。
それじゃ、お薬持って行って来ますね。」
「千鶴よ。」
「はい?」
「あんま、無理、すんなよ。」
首だけ振り返った私を、原田さんは優しく気遣ってくれる。
永倉さんも、困ったような、複雑な笑顔で励ましてくれる。
「大丈夫ですよ、私、無理なんてしてませんから!」
にっこり笑い返して、失礼しますと頭を下げ、そのままあの人の部屋へと向かう。
「その顔が、無理してんだってぇの。」
永倉さんの、小さな呟きが聞こえた気がしたけれど、私は気にしない素振りで足を速める。
目的の部屋は、八木邸最奥に位置しており、滅多に隊士が訪れる事はない。
障子越し、室内にいるであろう人物に小さく声を掛ける。
「雪村千鶴です。お薬をお持ちしました。」
そのまま私は動かない。
以前声を掛けただけで中に入ってしまい、ひどく立腹された事があるからだ。
なかなか返事はないけれど、辛抱強くその場で待つ。
ふと、空を見上げれば、白に近いような月が、清廉さを放ち輝いていた。
「・・・・どうぞ・・・・お入り下さい。」
中から囁くような返事が聞こえ、暫し月に魅入っていた私は思わず薬と共に持っていた白湯を零してしまった。
「きゃっ・・・」
あぁ、やってしまった。すぐ代わりの白湯と雑巾を持って来なくっちゃ。
そう思い、中の人物にもう一度来訪し直す旨を告げようと口を開きかけた時
「どうしました?」
すらりと障子を開け、その人物が現れた。
「あ・・・」
「白湯を零してしまったんですか?
全く、相変わらず貴女はそそっかしいですね。」
苦笑と共に溜息を漏らすと、私の手にそっと触れる。
「怪我は、ありませんか?」
「はい・・・はい、大丈夫ですよ。」
ふと見上げられた瞳に、薄く笑い返して私は名を呼ぶ。
「山南さん。」
新撰組総長、山南敬助。
今はもう、決して実戦に出る事のない、総長その人。

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