短編

鬼ごっこ 〜総受け→左之助〜
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「ねぇ、鬼ごっこしない?」

ある日の昼下がり
それは沖田さんの一言から始まった




「だ・・・だからって・・・」
「何で私が鬼なのぉ〜〜〜!?」
――僕らが鬼になったら、皆すぐ捕まっちゃってつまんないよ
「つまんないって、そういう問題じゃないし!」
私が鬼になったら私がつまんないじゃないの!
「もぉ〜だいたい新選組幹部の皆様が私に捕まる訳ないじゃない〜〜。」
ブツブツ呟いてみても、誰の姿も見当たらない。
あの中で、すぐ見付かりそうなのは・・・
「まず斉藤さんと沖田さんは無理よね。
あの二人が私なんかに見付けられるとは思えないもの。
と、なると・・・・。」
平助君か、永倉さんか・・・・。
「原田さんは・・・・どうかなぁ?」
ん〜〜・・・ちょっと無理そう。
「よし!平助君と永倉さんを集中して捜そう!」
とは言っても、二人の隠れそうな場所なんて検討もつかない。
二人とも鍛錬好きだから、稽古場かなぁ?
稽古場まで足を運び、辺りを見回してみるけど、やっぱり二人の姿は見えない。中では、島田さんが鍛錬しているところだった。
「島田さん!」
「おや、雪村君。どうしたんですか?」
「平助君と永倉さんを捜しているんです。
どちらかでもいいので見ませんでしたか?」
「ああ、あの二人なら、台所場にいると思いますよ。」
「お台所・・ですか?」
「えぇ、上等の酒が入ったと、料理番が言っていたので恐らく・・・。」
苦笑しながら島田さんが教えてくれた情報を頼りに、台所を目指す。
「・・・・ホントにいるし。」
わざわざ覗きに行かなくても判る。
廊下のこんな端まで聞こえる大声は永倉のモノだ。
「・・・・永倉さん!平助君!!見付けましたよ!」
パシーンと、台所場の障子を開け放つと、既に泥酔状態の二人が床にトグロを巻いていた。
それを見た千鶴は、一瞬で開いた口が塞がらない。
床に転がる酒樽の量に、更に開いた口が固定されてしまった。
「えぇぇぇぇ〜!?」
「あ〜〜〜ちるるじゃ〜ん。」
「お〜〜〜あいかわらずきゃわいぃなぁ〜。」
酔った二人は口々に何か言いながら千鶴へとにじりよる。
「お、お二人とも・・・この短時間にこんなに呑んだんですかぁ〜?」
「にゃにぃ〜〜。こんらもんら〜へれもれ〜んらよ〜〜。」
「お〜らお〜ら〜〜〜。ちるるもいっろにろめ〜〜〜。」
最早何を言っているのか、人語を話しているのかさえ怪しい呂律の回りっぷりだ。
「平助君、何言ってるか判んないよ!?
永倉さん!抱き付くのは止めて下さい!ってかお酒臭っ!
いや〜〜〜平助君どこ触ってるの!?」
「あ〜おのやろ〜〜え〜すけ〜〜うらやまし〜ころしるな〜〜〜。」
「永倉さっ!羨ましいって何ですか!?
って言うか袴の中に入ろうとしないでぇ!!(泣」
鬼ごっこの鬼である筈の自分が、何故こうも追い詰められているのか、全くもって理不尽な思いに駆られ、悲鳴を上げる。
これなら風間達に追いかけられている方がマシかも、と本気で考え始めた頃。
救世主が現れた。
「・・・何を、している。二人とも・・・・。」
絶対零度の救世主。
その名は斉藤 一。
永倉を蹴り倒しながら千鶴の目には、突如現れた斉藤の後ろに後光が射して見えた。(何故ここに居るか、等は考えない)
「うぉっ?はじめく〜〜ん、だぁ〜〜〜」
斉藤の姿を発見した平助は、千鶴に抱き付くのを一時中断。
今度は嬉しそうに斉藤ににじり寄る。
喜色満面な平助に対しても、あくまで冷静なままな斉藤。
「貴様ら、(俺の)千鶴に対していい度胸だ。」
その声と、柄に左手を沿え構える斉藤の殺気に、千鶴の袴から蹴り出された永倉が、瞬時に顔色を変える。
「まぁ!!待て!待ってみよう!斉藤!!」
「問答・・・無用・・・。」
「・・・・っんっぎゃ〜〜〜〜〜〜!」
永倉の制止虚しく、千鶴がとっとと後にした台所場からは、二人の絶叫が木霊した。
「今夜の夕食、いつもより鉄分豊富かもしんない。」
それも健康にいいか、等と思ってしまう辺り、既に千鶴の思考回路も新選組色に染まりつつあるようだ。
「あ、しまった・・・。斉藤さん、捕まえ忘れた・・・・。」
「ま、いっか♪」
1秒で斉藤の存在を頭から消し去り、残る沖田と原田の探索に乗りかかる。
「ん〜〜沖田さんっと、原田さんか・・・・
沖田さんなんかは、隠れるの飽きた〜とかって
部屋で寝てそうだなぁ。」
まさかいる訳はないと思いつつ、念の為確認に向かい、襖を開ける。
「あっれ〜〜?見付かっちゃった?」
いるしっ!!!
何で!?どうして!?
今って鬼ごっこしてるんだよね!?
私の聞き違い?
勘違い?
しかもわざわざ布団とか敷く!?
真剣に皆さんを探してる自分が馬鹿馬鹿しくなった千鶴に、沖田は実に楽しそうに笑い掛ける。
「千鶴ちゃんも、鬼ごっこなんか止めてさ、僕とお昼寝、しようよ。」
「言い出しっぺは、沖田さんじゃないですかぁ〜〜」
「う〜ん、そうなんだけど、飽きちゃった。
やっぱり僕って捕まるより、捕まえる方が好きだしね。」
今まで必死に探していた自分は何なんだ・・・。
「何か、虚しくなってきました・・・。」
「あれ、それ良くないよ?人生何ごとも楽しくなくっちゃ!
と言う訳で、一緒に寝よう?。」
よく判らない理屈で布団の中に引っ張り込まれそうになる。
「おぉぉぉぉ〜〜!!??沖田さ〜〜ん!」
「「「総司〜〜〜っ!!!」」」
どこから沸いたのか
必死に沖田の腕から逃れようとする千鶴を救い出したのは、先程まで千鶴にじゃれ付いて、じゃれ付き過ぎて斉藤から天誅を受けた平助と永倉(全身傷だらけの理由は考えないでおく)
そして氷の救世主・斉藤も、何故か一緒に沖田に詰め寄る。
「何してやがる!この変態!」
「ひどいなぁ、変態はないでしょ〜。
それに、僕は酔ったからって言って女の子に乱暴したりしないよ。」
「俺の目が確かなら、先程まで千鶴を布団の中に連れ込もうとしていたのはお前でなかったか?」
「あぁ斉藤君、いたんだ?」
さらっと存在を無視される斉藤さん。
確かに気配を絶つと言うより、存在感が薄いような気がするなぁと、心此処にあらず、千鶴は思う。
「そうだ!総司!女の子に無理強いするのはよくねぇ!」
「うわっ!永倉さんも言える事じゃねぇし・・・」
「無理強いじゃないよ、合意の上だよね〜?千鶴ちゃん。」
「何嘘ぶっこいてんですか、沖田さん・・・。
斉藤さん構わないんで、皆まとめてバッサリ行っちゃって下さい。」
「了解した・・・。」
好き勝手な事をほざく三人を残して踵を返せば、再び後ろで響く大絶叫。
「ぎぃっやぁぁぁぁぁ〜〜!!」
自業自得だし、と全てを見ない振りで立ち去る。
「残るは、原田さんかぁ。」
もはや千鶴の頭に鬼ごっこの定義は掻き消えている。
「こうなったら、何が何でも見つけてやる!
でも、どこにいるんだろ、原田さん。」
ブツブツ呟きつつ、屯所内を充てもなく捜し歩く。
時刻は既に夕暮れ。
「お馬鹿三人組に付き合わされてるうちに、暗くなってきちゃったなぁ・・・」
っていうか、あれで新選組幹部ってどうなんだろう。
夕空を見上げ、ぽつりと呟く。
「う・・・何だかホントに虚しくなってきた・・・。」
ちょっと泣きそ・・・。
「原田さん、いないなぁ」
俯き加減でぽそりと呟けば、とんっと誰かにぶつかってしまう。
「あ、すみません!ごめんなさい!」
慌てて謝りつつ距離を取ろうとする・・・が、何故かそのまま羽交い絞め状態。
「あ、あれ??」
「お前・・・おっせぇよ、いつまで待たせてんだよ。」
「原田さん!!」
見上げれば困ったように笑う原田の顔。
「ごめんなさい・・・ちょっと・・・色々ありまして・・・」
「色々?」
「・・・・色々です・・・」
言葉を濁し視線を泳がす千鶴に、大よその事態を察した原田。
「明日、あいつらぶち殺しとくわ。」
「そうしちゃって下さい。」
「うぅわ・・・。この鬼、物騒だなぁ。」
「鬼って・・・もう鬼ごっこにもなりませんよ。」
ぷんっと膨れれば、原田は楽しそうに笑う。
「そうでもねぇよ、俺は、お前って鬼に、とっくに捕まっちまってるぜ?」
にやりと笑って千鶴の顔を覗き込めば、蛸もビックリな程赤く染まる千鶴の頬。
「おっまえ・・・真っ赤!」
ははっと笑う原田に、膨れつつも一緒に笑ってしまう。
「そうですね、私も・・・。」
にっこり笑って原田にしがみつくと、思いきり背伸びして原田の耳元に囁く。
「原田さんに、捕まっちゃってます。」
思わず目を見開く原田に、千鶴はくすくすと擽ったそうに笑う。
「お前それ、反則・・・。」
苦笑した原田は、そのまま鬼さんを抱っこして、自室へと消えて行った。
その後の鬼さんがどうなったのかは、原田のみぞ知る。

翌日――
「てめぇら!!どいつもこいつも揃って何やってやがる!!。」
鬼の副長の怒号が屯所内に響き渡る。
台所場の酒はごっそり呑まれ
沖田・藤堂・永倉の幹部三人が屍と化し
斉藤は目して語らず。
原田だけは妙に溌剌と艶めいていたが、千鶴は昼近くになっても起きて来ない。
「おめぇら、俺のいねぇ間に何やってたんだぁ?」
「何って・・・・。」
ちらりと原田が斉藤に視線を向ければ
斉藤は小さく一言。
「鬼ごっこ・・・?」
それを聞いた土方は
呆れたように眉を顰め
深〜〜い溜息を落とした。
「おめぇら、当分、鬼ごっこ禁止。」
鬼の副長土方歳三。
彼すらビビらす千鶴鬼は、布団の中で幸せな夢に浸りつつ、にやりと笑った。



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