短編集

相合傘〜雨音〜あや様リクエスト
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じめじめ、とか、シトシト、とか・・・この季節を飾る言葉にはあまり綺麗な表現はないと思う。
「雨、止みませんね。」
「そうだな。」
私の隣では斎藤さんが、瞳を閉じて雨音に耳を済ませている(ような気がする。)
「・・・。」
静かだなぁ。
土方さんに頼まれたお使いに、斎藤さんと二人で出掛けた。
屯所を出る時から少し怪しい空模様だったけど、帰るまでは大丈夫だろうと思ってた。
・・・のに・・・。
灰色の空から落ちてくる無色の水は、止む事を知らないかのように降り続く。
「すみません・・・。」
「何がだ?」
「だって、私がちゃんと傘を持って来ていれば、こんな所で雨宿りなんて・・・。」
続く言葉は雨音に消えて、斎藤さんがじっと私を見下ろす気配だけが残る。
何だか、居た堪れない。
何か言ってくれないと、どうしていいか判らない。
元々無口な人ではあるけれど、今日はいつもより更に口数が少ない気がする。
「俺は、雨の日は嫌いではない。」
「え・・・?」
「雨音は、ざわつく己を静かに律してくれる。だから嫌いではない。」
「雨音が・・・自分の心を?」
「あんたには聞こえないか?規則正しく軒を叩く音や、足元に掛かる水音が。」
「聞こえます。・・・でも、私には・・・何だか優しく聞こえます。」
斎藤さんの言葉に耳を澄ませば、微かに届く何処か優しい雨音。
ささくれた心を撫でてくれるような、優しい響き。
「優しい音か・・・あんたらしい。」
隣の気配が、ふっと暖かくなった気がして、目を向けると、無表情なその目元が穏やかに緩んでいた。
滅多に見られない笑顔とでも呼べるそれに驚く私に、斎藤さんは襟巻きを解いて頭に被せてくれる。
「斎藤さん?」
「どうやら、一向に止む気配もない。あんたを雨の下歩かせるのはやぶさかではないが、仕方無い。屯所まで、堪えてくれ。」
私が答えるより早く、斎藤さんの腕が私の肩へと回される。
押し出されるように踏み出した雨の中。
斎藤さんと寄り添うように襟巻きを傘代わりに歩いた。
すぐ近くに感じる意外に逞しい胸と、肩に置かれた暖かな腕がとても安心出来るのに、何故か私の心臓は落ち着かずに早鐘を打ち鳴らす。
「どうした?」
私を覗き込む斎藤さんの目には、頬を真っ赤に染めた自分の間抜けな顔。
「な・・・何でもありません!」
「そうか?では、急ごう。あんたに風邪を引かせる訳にはいかない。」
彼の言葉にコクンと頷きながら、心の何処かで屯所がもう少し遠ければいいのに、なんて思ってしまったのは、雨の音がもたらした錯覚なのかもしれない。






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