短編集

師は走り弟子は歩く
1/1ページ目

どこもかしこも走り回る程忙しい季節。
それが師走。
その名の通り、忙しさの余り師まで走ると言う意味の月。
その初旬の新選組屯所内。
の、更に一室では、三番隊組長が頭を悩ませていた。
「・・・これでは埒があかんな・・・。」
思わず呟きを洩らした時、襖の向こうから馴染んだ気配を察知する。
静かに立ち上がり襖を開ければ、今まさに手をかけようとしていただろう雪村千鶴が座っていた。
「あ、あれ?斎藤さん、どちらか行かれるんですか?」
「いや・・・お前が来たのが判ったから、開けただけだ。」
「あ〜そうなんですか〜。びっくりしました〜。」
朗らかに笑いながら失礼しますと一礼してから入室する。
彼女のこの律儀な礼儀正しさを斎藤はいつも好ましく思っていた。
「あ、やっぱり。随分遅くまで明かりが点いているなって思ったらお年賀書いてらしたんですね。
・・・何だか・・・他の方より量が多くないですか??」
「・・・ああ。新八に押し付けられた。」
「え!?じゃあ、これ永倉さんの分もあるんですか!?
大丈夫なんですか?土方さんが明後日には一斉に出すっておっしゃってましたけど・・・。」
「そのようだな・・・。正直、間に合うか判らん。」
「わ、私お手伝いします!」
溜息を吐く斎藤に、千鶴がはいっと大きく挙手をして名乗りを上げる。
その仕草は微笑ましいが、新八に押し付けられた分は別にして、自分の仕事をさせる訳にはいかない。
「いや、お前にそこまで面倒はかけられん。」
「大丈夫ですよ!昼間は無理ですが、夜でしたら時間あります!二人ですれば、きっとすぐですよ!」
結局、にっこり笑う千鶴に押し切られる形で深夜に二人、文机に向かう事となった。
黙々と筆を滑らす事数刻。
「何とか目処が付きそうだな。助かった。礼を言おう。」
「いいえ!お力になれたなら、私も嬉しいです!」
「かなり助かった。ありがとう、千鶴。」
「え・・・・いえ・・そんな・・・。」
自分が笑った事に気付かない斎藤は、何故か赤くなって俯いてしまった千鶴の頭を優しく撫でた。
すると急に千鶴がくすっと笑い出した。
「何がおかしい?」
笑われるような事をした覚えはない。なのに何故千鶴が笑うか判らない斎藤は首を傾げる。
「いえ、斎藤さんの手って、優しいですよね。私そうやって撫でて頂くの、好きです。」
照れ隠しに笑っているのだと気付いた斎藤は、ふと思いつき千鶴を手招きする。
「ならば・・・礼の代わりにもう少し撫でてやろう。千鶴、こちらに頭を乗せろ。」
そう言って斎藤が指したのは何とその膝の上。膝枕をしてやると言う斎藤に、千鶴の顔は瞬時に赤く染まった。
「そ、そんなっ・・・。斎藤さんも疲れてらっしゃるのに、そんな事して頂く訳には・・・。」
「俺もと言う事はお前も疲れているのだろう。寝心地は悪いだろうがこちらに来るといい。さぁ。」
半ば強引に手を引かれ、斎藤の膝におずおずと寝転がる。斎藤は千鶴を優しく見下ろしながら、ゆっくりと髪を撫でいく。
その心地良さに、千鶴も目を細めて笑う。
「凄く・・・気持ちいいです。」
「そうか・・・それは良かった。・・・そう言えば・・・。」
斎藤が何か思い出したように文机の上から包み紙を取ると、中身をぽいと千鶴の口に放り込んだ。
「??これ・・・。」
「甘い物は疲れが取れると局長が下さった。ほとんど新八に食われてしまったが、最後に一つ残していて良かった。」
「え?最後の一つなんですか!?」
「ああ、俺は食べた事はないが、旨いらしいな。」
「ええ!?そんなっ!食べた事ないなんて・・・どうしよう・・・。」
「気にするな。お前の疲れが癒えるなら、それでいい。」
そうは言われても、最後の一つ、そして食した事のない斎藤に申し訳なさ過ぎてゆっくり味わえない千鶴。
その様子に斎藤も一計を案じる。
「そうだな・・・では、一緒に食すか?」
「え・・・?」
斎藤は、そう呟くと千鶴に覆い被さり口付けと共に舌を口内へと侵入させると、
驚く千鶴にお構いなしに飴玉を舌で転がし始めた。
「・・・こうすれば、俺も、お前も食べられるだろう?」
僅かに口をずらし、さも名案だと言うように満足気に笑う。
千鶴は、自分が行っている行為と、されている行為に真っ赤になりながら、一つきりの飴玉を二人で舐め続けた。
翌日二人の舌が妙に腫れた感覚に陥ったのと、斎藤に仕事を押し付けて遊びに行き、あまつさえ飴玉をほとんど食ってしまった新八が
千鶴にこっぴどく叱られるのは、また別のお話。


[指定ページを開く]

章一覧へ

<<重要なお知らせ>>

@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
@peps!・Chip!!は、2024年5月末をもってサービスを終了させていただきます。
詳しくは
@peps!サービス終了のお知らせ
Chip!!サービス終了のお知らせ
をご確認ください。




w友達に教えるw
[ホムペ作成][新着記事]
[編集]

無料ホームページ作成は@peps!
無料ホムペ素材も超充実ァ