短編集

宇宙(そら)の奏でる音〜24000hit瑠子様キリリク〜
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空に輝くのは、満月であったり、朧月であったり、また闇夜であったりした。
けれど、どれ程明るく照らそうとも、陽の光が照らす事はなかった。
千鶴がそこを訪れるのは、いつもそんな真夜中。
昼間でも構わないと土方は言う。
危険だからと斎藤も止める。
しかし、昼間であろうが夜間であろうが、どちらも危険が伴うのなら、
なるべく新選組の、果ては斎藤の迷惑にならない夜中に行こうと決めた。
そうして千鶴は、今日も斎藤の待つ天満屋へと急ぐ。
最初の頃から、恐らくは見えない影で山崎か島田が自分の護衛をしてくれているんだろう。
気配を探るけれど、いつも何処にいるのか、皆目見当が付かない。
そうして気配を探る内、目的の場所、天満屋へと到着する。
「ご免下さい。」
いつものように勝手口から声を掛けると、いつもの人が顔を出す。
「ああ。今日も来たね、斎藤君だろう?待ってな、今呼んでやるよ。」
気の良さそうなこの人は、千鶴を女性だと思っている。
やんごとない事情で男装をして、恋人である斎藤に逢いに来ているのだと思っている。
最初にそう指摘された時、違うと否定しようとした千鶴を斎藤が止めた。
ここの人間には、そう思わせていた方が都合がいい。
能面のように表情の読み取れない顔で、斎藤は淡々と語った。
「千鶴」
勝手口の外側で待っていると、ふらりと闇に溶けるように斎藤が姿を現した。
「斎藤さん、お疲れ様です。こちら、今日の分です。」
「ああ、ご苦労だった。」
土方からの文を受け取ると、素早く目を走らせ、すぐに火にくべる。
万が一にも情報が洩れない為に。
文を渡せば千鶴の役目は終わり。
本来ならすぐに帰らなければいけないが、斎藤が否定せずにいた嘘のおかげで、
用件が済んだ後も少しは話をする時間を持てるようになった。
「恋仲である男女が、文だけ交わして別れるのは、おかしいだろう。」
斎藤はそんな風に言って、いつもより少し距離を縮めて立つ。
「屯所内の様子はどうだ?」
しかし、成される会話は新選組の事、薩摩・長州の動き、仕事以外の会話は一切無い乾いた内容。
それでも千鶴は、斎藤と同じ時間を共有していると言う現実に満足していた。
斎藤が、藤堂と共に伊東の元へと行ってしまってから、二度と逢えないのではと思っていたから。
「どうした?」
二度と逢えないかもしれない寂しさが、再び逢えた喜びを何倍にもした。
毎夜こうして逢瀬のように逢える喜びは、少し千鶴を欲張りにした。
仕事以外の話をしない斎藤に、少し甘えてみたくもなった。
「・・・何でも、ないですよ?」
そう思いながらも、結局何も言えずに、千鶴はもう少しだけ距離を縮める。
「寒いのか・・・?」
自分の方へ近付いた千鶴を、寒い故と勘違いしたらしくその肩を引き寄せる。
「大丈夫か?もう帰った方がいいのではないか?」
「平気です。寒い訳じゃないんです。だから、もう少しお傍に居させて下さい。」
「千鶴?」
「いけませんか?」
願いを込めて上げると、目を見開き驚く顔がある。
やはり駄目だと言われるのを恐れ俯いた千鶴の耳に、暖かな声音が届いたのは次の刹那。
「いけなくは、ない。もしお前が嫌でないなら、もう少し此処に居てくれないか。」
引き寄せられた肩に置かれた手に、力が篭る。
「出来れば、もっと傍に・・・。月明かりでは、お前の顔がよく見えない。」
首を傾げるように千鶴を覗き込む斎藤は、微かに笑みを刻んでいた。
「斎藤さん?」
「闇夜でしか叶わぬ逢瀬だが・・・それでも俺は毎夜この時間を待ち遠しく感じる。
帰さなくてはと思いながら、帰したくないと、日に日に強く思う。」
「本当ですか?」
千鶴は信じられない思いで斎藤を見つめ返すと、照れたように俯きながらも、頷く。
「ああ、信じられないかもしれないが・・・。」
「・・・いえ、いいえ。私もなんです。私も、同じなんです。いつも逢いたくて、けど夜しか逢えなくて・・・。
嘘でも恋仲だと言って貰えて凄く嬉しくて・・・。もっともっと一緒に居たいと欲張りになってしまうんです。」
自分の胸の内を語りながら、恥ずかしさの余り頬を真っ赤に染めて俯く千鶴を、斎藤は強く抱き寄せる。
「俺達は同じ想いを抱えていたのだな。」
「そう・・・なんですか?」
「ああ。俺は・・・この先数多の戦いに身を投じる。この先どうなるかも判らぬ身だ。
だから何も言わずに居ようと、ただ共にあれる時を、なるべく多く過ごせればと、そう思っていた。だが・・・。」
斎藤は、一旦言葉を切ると、千鶴の頬を両手で挟み込み、自分の方へと上向かせる。
「もしこの先も、こんな風にお前と共に在れるなら・・・俺は・・・。」
「斎・・・」
千鶴が斎藤へと答えようとした刹那、音にならない音が二人の耳に届く。
「斎藤さん、今、何か音がしませんでしたか?」
「ああ、聞こえた。風のような、水音のような、微かな・・・。」
そこまで斎藤が言った時、二人の目に信じられない光景が映る。
「斎藤さん!見てください、凄い・・・凄いですよ!?」
「・・・これは・・・。」
先程までは月明かりしかなかった闇夜に、昼間の様に明るく照らされる星空。その空を、幾筋もの星が横切っていく。
「流星・・・か。」
「こんなに沢山の流れ星、始めて見ました!早く願い事しなくちゃ!!」
「何だ?それは?」
「知らないんですか?斎藤さん。流れ星が消えるまでに、三回願い事を唱えると、その願いは叶うって言い伝えです。」
「一度に三回?それは無理があるのではないか?」
「そうですね!けど、今なら出来そうじゃないですか?」
斎藤は、尚流れつづける星を見上げて、微かに頷くと、千鶴へと向き直り、その左手に自分の左手を合わせる。
「願いではないかもしれないが・・・・。お前に、誓いを。」
「・・・え?」
「俺は、絶対に死なない。お前の居ない所では、お前の知らない所では、決して死なない。
どんな事があっても必ずお前の元へ帰る事を誓おう。」
「斎藤・・・さん・・・。」
「だから、お前も、誓ってくれ。俺の居ない所で、俺の知らない所で死なない事を、流れる星が消えるまでに。」
「はい・・・。誓います。斎藤さん。私は、貴方の居ない所で、貴方の知らない所で、決して死んだりしません。
もしもこの命が潰えるのなら・・・。」
「「二人で共に。」」
額を合わせて重ねた手と手。
紡いだ言葉は永遠の誓い。
夜空を流れた星が消えても、二人の影が離れる事はなく、静かな夜に一つに重なり合ったまま。
お互いを見詰め合いながら、くすりと笑う。
「ねぇ?斎藤さん、さっきの不思議な音は、星の歌う音だったのかもしれませんよ?」
「星の?」
「はい。星は、私達地上の生き物と同じように話しているんだそうです。
そして、その声は歌になって地上に届くんだそうですよ。滅多に聞こえないらしいですけどね。」
「そうなのか・・・。では、俺達は二人共珍しい歌声を聞く事が出来たと言う事か。」
「はい、そうですね!きっと、さっきの流れ星に驚いた星たちが、大きな声で歌ったから聞こえたんですよ。」
「では・・・俺達の誓いは、星の歌声に乗って天にも届いたかもしれないな。」
「はい、きっと届きましたよ。だから・・・。」
流れ星に誓った言葉が違える事はないですよね?
音に乗せない呟きは、既に静まっている夜空へ消える。
月だけが輝く夜に、二人は身を寄せ合ったまま限られた時を過ごす。
刹那の輝きに誓った言葉を胸に、永遠を願いながら・・・・。


〜オマケ〜

「副長に・・・報告した方がいいだろうか?」
「え!!土方さんにですか!?」
「何か・・・問題が・・・?」
「いえ・・・問題は、無いですが・・・。因みに、何と報告を・・・?」
しばし思案する斎藤。
千鶴が不安そうに見ていると、ふっと微笑んで顔を上げた。
「千鶴は俺の物になったので、誰にも触れさせないように、と言うのはどうだろう?」
「え・・・!?ほ、本当にそんな報告なさるんですか!?」
「ああ、よく考えれば、屯所内ではある意味外よりも危険が多いように思う。
お前を守るには、ある程度の牽制は必要だと思うのだが、どうだろうか?」
どうだろうか、と聞かれても・・・。
あまりに素直に心配を口にする斉藤に、半ば呆れながら押し黙ってしまう。
「いや、そうか。それよりも、お前を天満屋に常駐させればいいのか?
しかしそれでは副長との連絡が・・・。」
尚もブツブツと続ける斎藤。
そのどれもが過保護とも言うべき内容で、千鶴は照れ臭いやら嬉しいやら
どういう顔をしていいか判らないまま微笑ましく斎藤を見つめていた。
そんな二人の頭上には、また一つ。流れ星が落ちていった。


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