短編

永遠の刹那
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僕は屯所の中を歩いていて、不思議な光景に出くわした。
散乱した草履。
無造作に投げ出された手拭。
放置されたままの桶。
そして・・・。
「何で、こんなとこで寝てるのかな・・・。」
屯所で一番日当たりのいい縁側。
庭を見れば、太陽の下に輝く浅葱色の隊服がはためいてる。
「なるほど・・・。久しぶりの晴れた日に、洗濯してたら疲れて寝ちゃったって事かなぁ?」
それにしても・・・。
「無防備過ぎるじゃない?」
この辺りには幹部しか近寄らないとは言え男だらけの隊内で、ここまで無防備に寝顔を晒すなんてね。
「襲っちゃうぞ?」
僕はすやすや寝息を立てる千鶴ちゃんの横に並んで寝転ぶと、気持ち良さそうな寝顔の頬を突いたり、
結い上げた髪を引っ張ってみた。
「う・・・ん・・。」
その度にもぞもぞ動くけど、全然起きる気配はない。
「疲れちゃったんだねぇ。」
見れば幹部の隊服だけでなく、平隊士の物もいくつかあった。多分押し付けられたんだろうけど・・・。
「お人良しなのも、大概だよね。」
僕が諦めたように嘆息した時、通路の向こうから騒がしい足音と声が聞こえてきた。
「お?総司?何やってんだ?」
「千鶴、寝ちまったのか?こんなとこで。」
明るく声を掛けてくる新八さんと、驚いて目を見開く左乃さん。
「ん?うん。そうみたい。で、僕は今日は門番だから。」
「はぁ?」
「悪いんだけど、二人とも此処は通行止め。向こうを回ってくれる?」
「なるほどね。」
怪訝そうに顔を顰める新八さんと違って、さすがに左乃さんは話が早い。
「判った。風邪引かせねぇうちに、起こしてやれよ?」
「判ってる。ありがとう。」
遠のいて行く足音を聞きながら、千鶴ちゃんを見れば、確かに少し肌寒いのか縮まってしまっている。
「寒いの?大丈夫かな。」
肩をきゅっと抱き寄せれば、人肌が心地いいのか僕に擦り寄ってくる。
まるで猫みたいに僕の胸元に入り込んで、尚眠り続ける様子に、自然と顔が緩むのが判る。
僕は彼女を抱き締めると、いつか来る未来に思いを馳せる。
「本当は、こうしてずっと護ってあげたいんだけど・・・。」
昨日松本先生から聞かされた自分の病状。
それ程遠くない未来、彼女の前から消える自分。
「永遠には無理だけど、今、この瞬間位なら、僕にも護ってあげられるよね。」
風はどこまでも暖かく、浅葱色が輝く昼下がり。
僕は千鶴ちゃんと一緒に、まどろみの中に落ちていった。


出来れば・・・この瞬間を永遠に。
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