短編

It laughs ..only me...〜ルディ様リク〜
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最近沖田さんの様子がおかしい。
何が、と上手く説明は出来ない。
けれど、おかしいとしか言い様がないのだ。

「千鶴ちゃん、今日は何してたの?」
「今日ですか?平助君の隊の巡察に同行してました。
あ、その時隊士さん達が甘味を奢って下さいました。」
「へぇ、よかったね。楽しかった?」
「はい、とても。」
千鶴は試しにいつもこの後付け加える言葉をわざと省いてみる。
すると、しばらく黙って次の言葉を待っていた沖田が、途端不機嫌そうに顔を顰める。
「そうなんだ、平助君と一緒で楽しかったなら、良かったね?」
そう言って千鶴の背中を抱き締め、肩口に顔を埋めたまま動かない。
最後の言葉を言わない日は、大抵このまま沖田は何も言わない。そうして明け方部屋に戻っていくのだ。
それが何故なのか、千鶴にはよく判らない。
判らないけれど、何となく顔が綻んでしまう。だから千鶴はわざと最後の言葉を言わない。

別の日に珍しく土方からの外出許可が貰えた千鶴は、丁度休みだと言う原田と共に近場の山へと繰り出す。
秋の気配も濃くなり、紅葉狩りへと出掛けたのだ。
綺麗に落ちてた紅葉をお土産として持ち帰り、いつものように部屋を訪ねてきた沖田に嬉々として見せる。
「沖田さん、ほら綺麗でしょう?地面一杯に紅い葉が落ちていて、山の色だけでなく下も綺麗だったんですよ。」
「ふ〜ん、で?今日は左之さんと出掛けたんだ。」
「はい!とても楽しかったです。」
にこにこにこにこ。害意の無い笑顔で千鶴は笑う。
実はこの笑顔が沖田の機嫌を一層損ねる事になっているのだが、千鶴は全く気付かず紅葉狩の話を続ける。
「千鶴ちゃんホント楽しそうだね。」
「え?だって、楽しかったですし・・。」
「ふ〜ん・・・・じゃあ、僕と居る時は楽しくないんだ。」
「えぇ!?そんな訳ないじゃないですか!」
ふと見れば、沖田の眉間には常には無い皺が数本。これは昨夜とは比べようもない程機嫌が悪い。
さすがに鈍感な千鶴にもそれが判ったが、対処法が判らない。何故沖田の機嫌を損ねたのか、さっぱり判らないからだ。
判らないのが、千鶴の鈍感さを物語っているのだが・・・。
「だって、昨日は平助と、その前は一君と出掛けてたよね?すっごく楽しかったって言ってなかった?」
「言いましたけど、でも・・・」
「僕と出掛けた時はそんな事言わないじゃない。何で?僕と一緒だと楽しくないの?」
「は・・・え?はい?」
「ねぇ、何で?」
ずいとにじり寄る沖田と思わず後ずさる千鶴。一見沖田に千鶴が襲われているようだが、これはいつもの光景。
「何でって、あの、だって・・・。」
「だって何。」
次第に語尾がキツクなる沖田に、千鶴もこれはマズイと慌てていつも省いていた言葉と共に、自分の気持ちを素直に伝える。
「だって、沖田さんといる時は、楽しいより嬉しいの方が多いんです!それに・・・。」
チラッと上目使いで沖田を見れば、少し驚いたように眉間の皺は消えている。
「それに・・・皆さんと出掛けていて、どんなに楽しくても、いつも隣にいるのが沖田さんだったらなって・・・考えてますから。」
頬を染めて俯き加減で、千鶴は小さく笑った。沖田は、告げられた言葉にも千鶴の幸せそうな笑顔にも、少しだけ満足する。
「ホントに?そんな風に思ってる?」
「ホントです。」
「嘘じゃないよねぇ?」
「嘘じゃないですよ!」
「じゃあ今も嬉しいんだ?」
「はい・・・一緒に居られて、嬉しいです。」
「・・・そっか・・・・。」
沖田は薄く笑うとそのまま部屋を出て行ってしまう。残された千鶴は、沖田の機嫌が直ったのか否か微妙過ぎて困惑するばかり。

翌日
今日の巡察は永倉の八番組に同行する事になった千鶴が出掛ける準備をしていると、沖田が廊下の先からてとてと歩いてくる。
「沖田さん、おはようございます。」
「おはよう千鶴ちゃん。今日は新八さんと?」
「はい、そうです。」
「ふ〜ん?僕は今日休みなんだけど、新八さんと出掛けるんだ?」
「え!?今日沖田さんお休みなんですか!?」
「うん、そうだよ、言ってなかったけど。」
「い・・・言って下さいよ、そういう事は・・・。」
「ん〜。急に教えたら君がどうするかなぁって思って。」
昨夜と違いにこにこ笑いながら、「どうする?」と目だけで問い掛けてくる沖田。
そこにちょうど永倉が現れた。
「お〜千鶴。今日は俺んとこに同行するんだってな?道すがら上手い汁物の店に案内してやるよ。」
がしっと肩を抱かれてそのまま千鶴を連れて行こうとする永倉に、ひにゃり冷たい言葉が浴びせられる。
「新八さん、それ、僕のだから、触らないでくれるかな。」
一気に氷点下に下がる周囲の体感温度に、永倉が恐る恐る振り返ると、絶対零度の微笑を貼り付けた沖田が壁に寄りかかってこちらを、
と言うより、千鶴の肩に置かれた永倉の腕を見ている。
「そ・・・総司・・・・お前、こえぇって・・・・」
蒼白になりつつも、そっと千鶴から離れると、沖田から発せられる冷気も形を潜めていく。
「永倉さん、すみません。私今日の同行はご遠慮しておきます。」
ぺこんと頭を下げる千鶴に、むしろ永倉は有難かった。
「いや!こっちこそ・・・・そうしてくれると命拾いするからよ・・・。」
後半は沖田に聞こえないように言ったつもりだったが、「何か言った?」と後ろから声を掛けられる。
「い〜〜〜や!?なんも言ってねぇ!んじゃ、俺行って来るわ!」
しゅたっと手を上げてほぼ駆け足で走り去る永倉の後ろ姿を見送ると、千鶴は思わず苦笑を漏らす。
「ふふ・・・沖田さん、永倉さん怯えてましたよ?」
「そうかな?僕何もしてないのにね。」
先ほどの冷気を伴う笑みとは違い、温暖気候となった笑顔を浮かべて沖田は千鶴に抱きつく。
「お、沖田さん!人がいますよ!?」
「別にいいじゃない。っていうかさ、見せ付けとこうよ」
「な、何でですか!?」
いつもは一応男として通っている千鶴に、あまり人前で触れようとしない沖田が今日に限ってはぴたりとくっついて離れない。
「だって、僕が我慢してたって左之さんも平助君も新八さんも、関係なく君にくっついてるじゃない。そんなのずるいと思わない?」
「ずるいとか、言う問題なんでしょうか・・・。」
「ずるいよ。君は僕のなのに、皆して・・・。君だって・・・。悪いんだよ?」
「え?」
「僕意外の人と一緒で、あんな楽しそうな顔するから。余計な事考えちゃうでしょ?」
「余計な事って、何ですか?」
「君みたいな鈍い子には教えてあげないよ。それに、どうしたらいいか判ったしね。」
「鈍いって・・・・私そんな鈍くな・・・。」
「救いようがない程、鈍いよ。」
反論する間も与えず返される言葉に千鶴も押し黙ってしまうと、沖田は満面の笑顔のまま千鶴の手を取り、廊下を歩き出す。
「二人でどこか行くのもいいけど、今日は屯所で一緒にいよう?ずっと二人きりでさ、誰にも邪魔されたくないし。」
「あ、はい。今日は少し肌寒いですから、その方がいいですね。一緒にお昼も食べて下さいます?」
「勿論。お昼も午後のお茶も、昼寝も一緒にしよう?君はずっと僕の傍にいればいいからね。」
すっと屈み込んで千鶴の目を覗き込みながら沖田は笑う。その顔は、何だか悪戯を仕掛ける子供のようで、釣られた千鶴も微笑みながら
ずっと一緒にいようという沖田の言葉を噛み締める。
「そうですね、私も沖田さんとずっと一緒がいいです。」
千鶴が他の誰かと出掛ける度下がっていく沖田の周辺温度は、千鶴を常に沖田の傍に置いておけばいいんだと、誰もが気付いた日。
肌寒い筈の秋の日に、二人の周囲にだけは春の陽気が漂って暖かかった。


ずっと僕の隣に
ずっと僕の傍に
ずっと僕だけに笑顔を見せて
他の誰にも触れさせたくない君だから
ずっと閉じ込めておきたいんだ
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