短編

指先から微熱〜微裏?〜ルディエール様リク
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「前髪伸びてきちゃったなぁ。」
縁側で一緒に日向ぼっこをしていると、陽に透ける茶色の髪を摘んで沖田さんが呟いた。
「私でよろしかったら、お切りしましょうか?」
「千鶴ちゃんが切ってくれるの?へぇ・・・じゃあ、お願いしようかな。」
沖田さんは、いつもと同じような、すこし意地の悪い笑顔でよろしく、と軽くお辞儀した。

シャキッシャキッシャキ・・・乾いた刃物の音が、静かに部屋に響く。
その度ハラハラと切り落ちて行く薄茶色の髪の毛。
「綺麗な髪ですよね。サラサラしてて、結い難くないですか?」
「ん〜少しね。けど僕って器用だから。」
「そうですね・・・確かに、いつも綺麗に結われてますね。」
さらりとした細い髪はするりと指の間を摺り抜けてしまい、
もし私だったらとてもじゃないけど、あんなに綺麗に結えないなと考えながら切り進めていく。
元々前髪を切るだけだったので、すぐに終わってしまった。もう少しだけさらさらの髪に触っていたかったけど、あまり短く切る訳にもいかない。
「終わりましたよ。」
名残惜しさを隠して沖田さんに告げれば、彼は鏡で確認する前に私の方を振り向く。
「ありがと。でも君さ、今、もう少し触ってたいって、思ったでしょ?」
「そ・・・そんな事思ってないです!」
「嘘だね。君の指が離れたくなさそうだったよ?」
何で判るんだろう・・・この人には。
いつも、こうだ。
私が綺麗に隠したつもりの胸の内を、沖田さんは簡単に暴いてしまう。
何となく悔しくてそっぽを向いていると、くいっと私の髪が引っ張られる。
「君の髪も、毛先がバラバラだよ?もしかしなくても自分でやったでしょ。」
「う・・・はい・・・後ろ髪は、綺麗に揃えられなくて・・・。」
「だろうね、後ろに目は付いてないからね。いいよ、僕がやってあげる。」
「は・・・へっ!?」
思わず返事をしそうになったけど、まさか新撰組幹部の沖田さんに、髪を切って貰う訳にもいかない。
私は慌てて被りを振って拒否しようとするけど、一度やると決めた事を簡単に覆す沖田さんでは無かった。
「駄目だよ、もう僕が切るって決めちゃったんだから。ほら、座って?」
ほとんど押し切られるような形で、今度は私が座らされる。
「じゃ、切るけど、もし間違えて首まで切っちゃったらごめんね?
そんな事になったら死んじゃうけど。」
物騒な事をくすくすと楽しそうに言いながら、私の髪を解いて、丁寧に梳いていく。
私は沖田さんの冗談とも本気ともつかない台詞に、思わず身を硬くしてしまう。
「あれ、本気にしちゃった?冗談だよ。」
沖田さん、貴方の冗談は本当に冗談に聞こえません・・・。
「僕の髪が綺麗って言ってたけど、千鶴ちゃんの髪も綺麗だと思うよ?」
「そうでしょうか。真っ黒で、太くて硬いし・・・私はあまり好きじゃありません。」
「・・・。」
「?沖田さん?」
ずっと会話しながら髪を切ってくれていた沖田さんが、急に黙り込んでしまった。口を開けばからかわれるか、物騒な事ばかり言うけど
黙られるとそれはそれで怖い。
「千鶴ちゃんさ、その表現、僕以外の人の前でしない方がいいよ。」
「え?どうしてですか?」
「判んないなら判らない方がいいけど、でも、ホントに駄目だよ?」
「だから、どうしてですか?私変な事言いました?」
「う〜ん・・・・変な事って言うか・・・。それとも、僕が変なのかな。」
「え?」
何がと、問う前に、沖田さんの冷たい指先がうなじに触れる。
「女の人の首筋って綺麗だよね。千鶴ちゃんも、普段は高く結ってるから、後れ毛が凄くそそられる感じ。」
「え、えぇ?何をおっしゃるんですか、急に!?」
「うん?だって、千鶴ちゃんが変な事言うから、ずっと我慢してたのに出来なくなりそうで困ってるんだ。」
「え・・・と、何をですか?」
聞かない方がいいと判っていても、思わず聞いてしまう。そして私は深く後悔した。
「何だと思う?知りたい?」
耳の後ろから、息が掛かる程の距離で、低く小さく囁かれる。私はそれが擽ったくて、一瞬肩を竦めると、沖田さんはそのまま私の肩を後ろから抱き締めた。
「あ・・・の、沖田さん・・・?」
「ん?何?」
「どうされたんですか?お加減でも悪いんですか?大丈夫ですか?」
そう言えば最近咳込む所をよく見るなと思い出し、顔を見る為に振り向こうとするけれど、それは沖田さん自身によって遮られてしまう。
「こっち見ちゃ駄目。前向いてて?」
「え・・・でも・・・。」
「しっ・・・静かに・・・。」
「沖田さん?」
「ごめんね、やっぱり我慢出来そうにないや。」
さらりと謝罪の言葉を口にする沖田さんに、我慢出来ない程具合が悪いのかと心配する私を、沖田さんは抱き締めたまま前に倒れ込むように畳の上に崩れた。
どうしようとオロオロしていると、ふいに首筋に当たる柔らかな感触。
「あの・・・。」
「黙って。」
低い声でそう告げられると、口を開いてはいけない気がしてそのまま閉ざす。けれど、違う意味で思わず声が出そうになってしまう。
沖田さんは、そのまま私の首筋に唇を這わせていく。
「・・・ふっ!?」
ぞくぞくと背中に走る痺れに知らず声が漏れる。
「静かにってば、人が来ちゃうでしょ?」
沖田さんはそう言って、首筋を這っていた舌を耳朶に移す。
柔らかい舌の感触が耳朶をなぞり、先程までとは違った感覚に満たされていく。
「ん・・・・ふぅ・・・・。」
「いい子だね、静かにしててね?」
耳朶を噛みながら囁かれ、掛かる息に身悶えしてしまう。
「でも・・・沖田さん・・・。」
「ん?何?」
「あの・・・・」
「君が悪いんだよ?せっかく我慢しようと思ってたのに。僕を誘うから。」
「誘ってなんか・・・!」
いません、と言おうとするけれど、太ももに這わされた手がそれを許してくれない。
「自覚無いから始末に終えないよね、君って。」
「沖田さん・・・。」
甘い吐息と言葉とは裏腹な優しい愛撫に蕩けそうになり、このままどうなってしまうのか不安に思いかけた時、
ふいに廊下の奥で人の気配がする。
「平助。総司見なかったか?」
「あ〜?部屋じゃねぇの?」
「お〜判った、見てくるわ。」
原田さんと、平助君のそんな会話が聞こえてくる。
「残念、時間切れ。」
ふ〜と溜息を吐いて、沖田さんは体を起こす。
私も組み伏せられた態勢から起き上がるけれど、恐らく蒸気して赤く染まっているだろう頬と
上がる息はなかなか治まらない。
「早く行った方がいいよ、この状態で左之さんに会いたくないでしょ?」
そう沖田さんに促されて、慌てて私は部屋を出ようとした。
「は、はい。それじゃ、あの失礼します。」
ぺこりと頭を下げてそのまま退室しようとする、くんっと肩を引かれ、体毎振り向かせられる。そして抗う間もなく一瞬深く唇を吸われ
治まりかけた動悸と頬の赤味が更に増してしまう。
「次は、もう少しゆっくり、ね。」
沖田さんは柔らかな笑みを口元に刻んで、今度こそ私を解放してくれる。
次はゆっくり何なんだろう!?と混乱しながら廊下に出れば、ちょうど原田さんと向き合う格好になった。
「おお、千鶴か。総司いるか?」
「は、はい!いらっしゃいます!失礼します!!」
私はまだ赤い顔のままだったので、それを悟られたくなくて、慌ててその場から離れた。
「な・・・何だったんだろう。今の・・・・。」
私は、先程触れられた意味も、口付けの意味も判らないまま、いつまでも治まらない動悸と頬の熱を持て余し、
それを引き起こしている自分自身の気持ちにも、気付かないでいた。

一方、その場に残された原田はと言えば、潤んだ瞳に揺れる髪の間に見え隠れするうなじに赤く散らされた華。
すぐさまその意味に気付き、バツが悪そうに部屋に入る。
「あ〜・・・総司?」
「何?左乃さん。」
沖田はいつもと変わらず笑顔のまま。
しかし今日に限ってその笑顔に隠れた黒い部分が強調されているのは、きっと気のせいではない。
「ってか・・・こえぇよ、お前。・・・・悪かったよ。次からは気を付ける。」
「次、ねぇ・・・あるのかなぁ・・・。怯えさせちゃったしなぁ。」
「って・・・どういう口説き方してたんだ。」
「ん?別に?髪の毛切ってあげてただけだよ?手が滑ったら死んじゃうね〜とは、言ったかな?」
それでどうやればあんな艶っぽい表情をさせられるのか・・・。全くもって不可解である。
「ま、いいよ別に。僕も我慢するの止める事にしたからね。」
「そうなんか。」
「うん、仕方無いよね、千鶴ちゃんが悪いんだもん。僕を本気にさせたから。」
ふふんと、鼻を鳴らす総司は、まさに獲物を狙う狼のように瞳だけは鋭く光らせ、原田が千鶴に同情するには充分だった。
(無理だと思うが・・・頑張って逃げろよ千鶴)
思わず心の中で合掌する程に・・・・。
(どうやって手に入れようかな〜。逃がさないよ?千鶴ちゃん。)
沖田は、見えない糸を手繰り寄せるように、どうやって千鶴に自分の想いを気付かせるか、楽しそうに画策していくのだった。
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