短編

祭囃子と貴方に笑顔
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遠くで祭囃子が聞こえる。
そんな時は思い出す。
幼い頃、父様と行ったお祭で、べっこう飴を買ってもらった時の事。
父様は元気だろうか。
病気になっていないだろうか。
怪我をしていないだろうか。
いつになれば、捜しに行けるんだろう。
新選組の屯所の内で、中庭を掃除する私は、
未だ土方さんから外出許可を貰えず父様を捜しに行く事も出来ずにいるだけ・・・。
「はぁ・・・・。」
「どうしたの?元気ないね。」
知らず洩らした溜息をどうやら聞いて居たらしいのは沖田総司さん。
一番組組長でもある幹部さんだ。
「いえ、どうもしませんよ、陽が暮れて来たなぁと思って。」
沖田さんは、ふっと耳を済ませて、聞こえてくる祭囃子ににやりと笑う。
「もしかして、行きたいの?・・・お祭。」
「別に、そういう訳じゃないです。」
「素直じゃないなぁ、行きたいなら、連れて行ってあげようかと思ったのに。」
「・・・!いいんですか!?」
「いい訳ないでしょ、土方さんの許可も出てないのに。」
「・・・・そうですよね。」
「けどやっぱり行きたいんじゃない。」
意地悪く楽しそうに笑う沖田さんに、やはりこの人は苦手だと再認識する。
初めて会った時から人を試すような言動ばかりで、その実、本心がどこにあるのか
さっぱり判らない人。
「あは、怒った?でもごめんね、もし土方さんから許可が貰えても
連れて行ってあげれないや。僕、夜の巡察組だからさ。」
だからごめんね?
少しも悪びれない笑顔を残して、沖田さんは巡察に出掛けて行った。
別に、本当に行きたかった訳じゃない。
ただ毎日こうして屯所にいると、本当にいつか父様に会えるのか不安になっていただけ。
行ける物なら行きたいけど、半分は虜囚の身ではそれは無理な話だろう。
「はぁ・・・。」
「あれ、やっぱり元気ないね。そんなにお祭に行きたかったんだ?」
今日何度目になるか判らない溜息を吐いていると、いつの間に帰って来たのか
沖田さんが目の前に立っていた。
「お、沖田さん!お帰りなさい。・・・あれ?今日は、お早いですね?」
「ん?うん、ちょっと抜けて来た。」
「って、えぇ?い、いいんですか?組長さんがそんな・・・。」
「いい訳ないでしょ、これでも僕忙しいんだよ。だから、はい。」
巡察を途中で抜けて来たと、事も無げに言う沖田さんは、目を丸くして驚いたままの私の手に
何かをポンっと渡して踵を返す。
「え?お、沖田さん??」
「お祭にも行けない可哀想な子猫ちゃんに、お土産。気に入らなかったら捨てちゃっていいよ。
平助辺りなら、喜んで食べるんじゃない?」
くるっと振り向いて、楽しそうに笑う沖田さん。
私は、無造作に手渡された物を見下ろす。
「・・・これ・・・・べっこう飴・・・。」
「それなら食べちゃったら証拠隠滅出来るし、ちょっとはお祭気分を味わえるんじゃない?」
「あ、ありがとうございます!」
「嫌だな〜そんな喜ばないでよ、昼間苛めちゃったから、お詫びの印。
だから許してくれる?」
「そんな、私気にしてないのに・・・でも、凄く嬉しいです。ありがとうございます!」
「お礼は一回でいいよ。」
何を考えているか判らない沖田さんだけど、その気持ちが嬉しくて私は満面の笑顔で何度もお礼を言う。
そんな私を、沖田さんは眩しそうに見付めると、今度こそ手を振り行ってしまった。
私の手には黄昏色に輝くべっこう飴。
いつか父様と、お祭に行った帰りに食べながら歩いた事を思い出す。
私は、手の中にぎゅっとべっこう飴を握り締めながら
いつかきっと父様に会えると自分に言い聞かせ、沖田さんに、もう一度ありがとうを呟いた。
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