短編

相合傘〜お迎え〜あや様リクエスト
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とんとんとんとん。
さっきから不規則に続くのは、土方さんが窓枠を叩く音。
はっきり言って五月蝿いんだけど。
「土方さん、さっきから何を待ってるんですか?」
五月蝿いんですけど、と顔に出すと、鬼の副長は眉間の皺を深めて僕を振り返った。
「何も待ってねぇよ!・・・雨が、止まねぇかと思っただけだ。」
「ああ・・・。」
確かに、ここ最近鬱陶しい位雨が続いてる。今朝は珍しく晴れてたんだけど。
昼から急に振り出したんだよね。
こうも雨ばかりだと、さすがの土方さんも気が滅入るのか。
「あれ?そう言えば、土方さんの可愛いお小姓の姿が見えないですね、何してるんです?」
僕の言葉にこれ以上無かった顰めッ面を、更に顰めた土方さん。
まさか、とは思うけど、念の為。
「もしかして、この雨の中お使いに出した訳じゃないですよね?」
「・・・まさか、あんな晴れてたのが降り出すとは思わねぇだろ。」
たまに思う。
実はこの人は新選組以外の事では頭が悪いんじゃないかと。
今は六月。
梅雨真っ只中。
朝、太陽が覗いているからと言ってそれが一日続く訳がない。
「千鶴ちゃん、傘・・・。」
「持って行ってりゃとっくに帰って来てる!」
「土方さんがお迎えに行けばいいじゃないですか。」
「俺はこれから近藤さんと出掛けなきゃいけねぇんだよ!」
「・・・どこにお使いに行ったんですか?」
「大文字呉服。新しい隊服が出来上がったってんで、取りに行かせた。」
「大事な隊服を、千鶴ちゃんに?誰と一緒に行かせたんですか?」
「・・・。」
歯切れの悪い、と言うより返って来ない返答が僕の心からの溜息を引き出してくれる。
「はぁ・・・仕方無いですね、いいですよ。僕が迎えに行って来ます。」
「は!?お前がっ!?」
「・・・何です、僕じゃ役不足とでも?」
「いや・・・だが、いいのか?」
「ちょうど退屈してたんです。暇潰しついでに彼女を迎えに行く位はしてもいいですよ。ただし、貸し一つですから。」
よく、底意地の悪そうな、と言われる(自覚してるけど)笑顔を土方さんに向けて玄関へと向かい蛇腹を手に取った。
後ろから聞こえる小さな舌打ちは聞こえない振り。
「あ、そうだ。」
そこで面白そうな退屈凌ぎを思いついた僕が手にしたのは、蛇腹一本だけ。
一本だけの蛇腹を抱えて二人並んだ時、彼女がどんな顔をするのか想像するだけでも退屈を紛らわせるには十分だ。
「本当に、千鶴ちゃんって退屈しないよねぇ?」
そして僕は雨の中、蛇腹を掲げて軽く足を踏み出した。




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