1/1ページ目 「君さ、僕の事、好きでしょ?」 私が庭掃除をしていると、沖田さんがいつの間にか傍にいて、いきなりそんな事を言い出した。 「す、好きじゃありません!」 「酷いなぁ、そんな思いきり否定しなくてもいいじゃない?じゃあ、嫌いなの?」 「ちがっ、嫌いとかじゃないですけど、沖田さんの言う意味の好きじゃないです!」 「ふ〜ん?そうなんだ?」 じぃっと間近で顔を覗き込まれて、自然と顔に赤みが刺すのが判る。 「ホントに、好きじゃないんだ?」 「・・・好きじゃないです・・・」 「そっか〜。僕は千鶴ちゃん好きだけどね?残念だけど」 仕方無いね。 そんな呟きを残して、沖田さんは歩いて行ってしまった。 「なん・・・だったんだろう・・・。」 どっと疲れが押し寄せてきて、私は深く溜息を吐く。 沖田さんの事は嫌いじゃない。 むしろ、好きの方が近い。けれどそれは沖田さんが聞いてきた意味とは違う種類だと思う。 どっちにしろ、人騒がせで人を困らせるのが大好きで子供っぽくて、けれどどこか大人で憎めない人。 「あの人を好きになる人は、苦労するんだろうなぁ・・・。」 絶対そんな苦労は嫌だと思いながら、庭掃除を再開した。 翌日の午後、縁側に座って、平助君と日向ぼっこをしていると、廊下の向こうで原田さんと話しこむ沖田さんを見掛けた。 真剣な話なのかと思って視線をチラチラ送っていれば、沖田さんと目が合った。 目が合った瞬間、彼の瞳は意地悪く笑いを帯びて、話し相手の原田さんでなく、ずっと私を見続けている。 かと思えば、ふっと急に視線を反らし、足早に立ち去ってしまった。 別の日には、稽古場で皆さんの鍛錬を見学している時、沖田さんと目が合った。 「好きなの?」 と聞かれて以来、変に意識するようになった私は、それだけで頬が熱を持って来る。 それを見咎められる前に、逃げるようにその場を後にしてしまう。 「これじゃ、余計変に思われちゃう。」 物陰で千鶴が大きく息を吐いている頃、沖田は千鶴の逃げ去った方向に視線を巡らせたまま、眉を寄せて口を尖らせていた。 「・・・そろそろ・・・観念すればいいのになぁ・・・」 「あ?何か言ったか?総司。」 沖田の独り言を聞きつけた新八が、不思議そうな顔で問い掛けてくる。 「何でもないよ、ただ、逃げてもどうせ捕まえるのになって思っただけ。」 「は?何が?」 「はは、新八さんには関係ないよ〜」 「何だぁ?そりゃ。」 楽しそうに笑う沖田に、新八は怪訝そうに眉を顰めたが、一部始終を見て居たらしい原田と斉藤には意味が判ったようだ。 「千鶴も気の毒に・・・。」 そう呟いて二人は重い重い溜息を洩らした。 ・・・・あれから一週間。 (沖田さんは、一体何がしたいんだろう・・・。) そう、あれからも沖田は、気付けば自分をじっと見詰めている。 けれど、傍に来るでも、話しかけるでもなく、ただ『見ている』だけなのだ。 その視線に居た堪れなくなった千鶴がその場を去ると、やはり顔には意地悪そうな笑顔を貼り付けている。 正直、千鶴は非常に居心地が悪かった。 まさに今、同じ状況に居るだからだ。 通路の奥で話し込む沖田と原田、そして平助。 けれど沖田の視線は、やはり千鶴に縫い付けられたまま。 そんな沖田に気付いた原田も、すぐに千鶴の存在に気付いて、声を掛けてくれる。 「よぉ、千鶴。何やってんだ?」 「あ、いえ、土方さんの所へ、お湯呑みを片付けに。」 「お〜偉いなぁ千鶴は。お前も見習えよ、平助。」 「ひっでぇ、俺がさも仕事してませんみたいな言い方止めてくれよなぁ。」 「何だ、今から呑み行こうって五月蝿いお子様が、ちゃんと仕事してんのか?」 「うぐ・・・・それは、それだよ。」 「何だそりゃ。あぁ・・・俺らが出掛けちまったら、お前一人になっちまうな。」 「あ、そっか。ん〜〜。」 呑みに出掛けたいけど、千鶴を一人にするのもなぁと悩む平助の隣で 沖田は、さっきまでずっと合わせていた視線を、今度はちらりともこちらに向けないでいる。 何なんだろう・・・。この人は・・・千鶴は益々訳が判らない。 「平助君、そんな気にしないで、行って来ていいよ!?」 「でも、お前一人だと、寂しいだろ?」 にかっと笑って平助君は言ってくれるけど、私のせいで遊びに行けないのは申し訳無さ過ぎる。 「だい・・・。」 「行って来ていいよ、屯所には僕が残るからさ。」 だいじょうぶ、と言う前に、千鶴の声に被さるのは、不可解な言動を繰り返す沖田だった。 「え・・・!?」 「マジで!?総司行かねぇの?」 「うん、ちょっと風邪気味だから、大人しく留守番しとくよ。ね?千鶴ちゃん。」 「は・・・はい・・・。」 思わず顔を引き攣らせる千鶴に、沖田はさも楽しそうに笑う。 幹部のほとんどが(斉藤までも)出掛けてしまったので、屯所に残った千鶴は沖田と気まずい時を過ごしていた。 (しかもどうして同じ部屋にいるんだろ・・・私) 「ねぇ。」 「はぃ〜〜〜!?」 「何でそんな変な声なの・・・。そんな隅っこいないで、もっとこっち来たら?」 「は・・・はい・・・。」 確かに、広い室内で、千鶴は角の隅、沖田に背を向けて座っていた。 沖田にそれを指摘され、仕方なく中央辺りに寝転ぶ沖田から、少し離れた場所に座り直す。 「また微妙な距離だねぇ?」 「そ、そうですか?」 「もしかして僕と二人きりで、緊張してる?」 「してません!」 「あっはは。僕はしてるけど?」 「へ?・・・どうしてですか?」 「だって好きな子と二人きりって、緊張するでしょ?」 ま、またこの人は!!どうしてこんな事ばっかり・・・。 「何で、そんな事言うんですか?」 「何でって?」 「私の事、本当に好きでもないのに、好きとか・・・そうゆうこと・・・。」 「ねぇ、千鶴ちゃん。」 「な、なんですか。」 「本当に好きって、どういう事?」 「え?」 ふいに聞こえた声はいつものからかいを含んだ声とは違い、真剣な色を帯びていた。 驚いて沖田を見れば、その瞳に浮かぶ色も、いつもモノとは違い、真っ直ぐ自分を見詰めている。 答えられないでいる千鶴に、沖田は視線を反らす事なく再度問う。 「ねぇ、本当に好きって、どういう事?」 「・・・判らない、です。けど・・・何だか、沖田さんの言う好きは違うと思ったんです。」 「ふ〜ん?千鶴ちゃんは僕の事よく知ってるんだね。僕がどういう風に君を好きかまで、判っちゃうんだ?」 「そ、そういう訳じゃないです、ただ思っただけで・・・・。」 「千鶴ちゃん。」 さっきまで離れた場所に寝転んでいた筈の沖田は、気が付けば息が懸かるほど近くで千鶴の耳元に口を寄せて囁く。 「君の言う本当と、僕の本当が一緒かは判らないけど、 僕は君を見てると嬉しい。 君といると緊張する。 君の声を聞くとドキドキする。 ずっと傍にいて、声を聞いて、笑ってる顔を見せて欲しいと思う。 それは、君の言う本当に好きって言うのとは違うの?」 「・・・・。」 囁きながら、そっと沖田の手が肩に回り、千鶴は後ろから抱き締められていた。 「ねぇ、違うの?」 「あ・・・・。」 「僕は、君が好きだよ。」 「沖田さん・・・。」 「君は?君は、僕が好き?それとも、嫌い?」 「・・・・そんなの・・・・。答え、られないですよ。」 「どうして?」 「好きか嫌いかって、聞かれたら、嫌いじゃないって返事しか出来ないです。」 「駄目だよ、どっちかでしか答えは聞かない。」 耳にかかる息が艶を帯びていく。抱き締める腕に熱が込められていく。 千鶴はその艶と熱に、次第に何も考えられなくなって行ってしまう。 「教えて?君は、僕が好き?」 「・・・・きです。」 「聞こえない。」 「好き・・です。」 「うん、知ってる。」 ちゅっと頬に口が寄せられ、驚いて顔をあげる千鶴の目に、いつもの沖田の瞳が合わさる。 「知ってた。君が僕を好きな事。ちょっと意地悪しちゃった。」 あくまでニコニコと笑う沖田に、張り詰めていた千鶴は脱力して項垂れてしまう。 「お、沖田さん・・・・。」 「何?」 「・・・・ずるいです。」 「はは、知ってたでしょ?」 「知ってましたよ。」 「だよね〜〜。苦労すると思うなぁ、きっと。」 「・・・でしょうね・・・。」 「あれ?苦労してくれるつもりなんだ?」 「お、沖田さん!」 「嘘だよ、苦労するだろうけど、僕も放すつもりないからさ、覚悟してね?」 「・・・・。」 あんなに苦労するんだろうと同情までした立場に、まさか自分が立つとは思わなかった。 にこにこ笑う上機嫌な沖田に、もしや自分は嵌められたのではと訝しむ思いも消える事はなかったけれど。 「でも後悔はさせないから、安心して?」 優しく強く抱き締める腕が心地よいから、そっと顔を寄せる沖田の目を見詰めて、そっと瞳を閉じた。 [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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