新選組保育日記

F〜食べられちゃう!!〜
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新選組に所属する者は、少なからず腕に自信のある者が多い。
剣・槍・大太刀。
獲物は多々あれど、甲乙付け難いのが現状。
しかしその中で、変わった特技で敵(?)を撃退する猛者も現存したりする。


『  ○月×日  ゆきむら ちづる
  しんせんぐみにはおばけがいる
  もしかしたらちづるはたべられちゃうかもしれない
  としちゃもたべられたらどうしよう
  としちゃがたべられたらちづるはいやだ   』
   
眉間に皺を寄せたまま、日記を広げて固まる土方。
もう勝手に盗み読む事に躊躇すら見せずにそれを手に取り、いつにも増して意味不明な文面に思考が追い付かない。
(食べられるって・・・俺が?何だ、そりゃ・・・?)
考えても判らない事はやはり本人に聞くしかないと、土方は愛しい我子を探しに部屋を出た。
「おい、千鶴見なかったか。」
いつもなら中庭で皆と遊んでいる筈の千鶴が見当たらない。
「千鶴〜?千鶴なら多分烝君とこじゃねぇかなぁ?」
平助のその一言に土方の青筋がぴくりと震える。
「あ?」
「いや!何か朝から千鶴怯えてて!そこにたまたま烝君が通り掛かったら付いてっちゃったんだよ!」
「怯えてた?」
「そうそう、何か知らねぇが、俺らも土方さんも食われちまう〜って。」
「何だ、そりゃ。」
「「「「さぁ?」」」」
どうやら幹部も意味が判らないらしく首を捻る。とりあえず土方は千鶴と共にいる筈の烝を探す事にする。
「山崎君、千鶴来てねぇか?」
「副長、千鶴君ならここに・・・。」
見れば烝の背中に張り付く千鶴の姿。まさにべったり!張り付いている。
「山崎君・・・動き難くねぇのか?」
「は・・・これも鍛錬と思えば・・・。」
がっちり肩に手を掛け脇に足を回して必死に齧り付く様子は可愛いが・・・。
「千鶴、平助がお前が何かに怯えてたらしいって聞いたんだが・・・何が怖ぇんだ?」
「としちゃ・・・。」
烝の背中から頭を出して千鶴が何かを言おうとした時。
「トシ?ここにいたのか、実は相談が・・・」
「としちゃ〜〜!!にげちぇ〜〜〜〜〜!ぱく〜っされりゅ!たべられりゅよ!」
「・・・は?」
「ち、千鶴君!だから、わしはトシや君を食ったりせんと言っとるだろう!?」
「っめ〜〜!!こっちきちゃめ〜〜!!すむもにげちぇ!としちゃ〜〜!!」
泣き叫びながら千鶴は土方へしがみ付くと、必死に袴を引っ張り近藤から引き離そうとする。
「ちょ、ちょっと待てって!千鶴、食われるって、どういう事だ!?近藤さん!!?」
「その件については俺からご説明を・・・。千鶴君、ひとまず落ち着け。局長は君や副長を食ったりしない。と、言うか不可能だ。」
「すむ〜・・・。ぱくさりぇにゃい?だいじょぶ?」
「大丈夫だから、とりあえず副長の袴の中から出て来い。でないと話が出来ないだろう。」
烝に呼ばれて渋々土方の袴の中に避難(?)していた千鶴は烝の膝に移るが、それでも近藤から精一杯体を離そうとしている。
(何で俺じゃなくて山崎君の膝に・・・)
違う事に衝撃を隠し切れず意気消沈する土方に、烝の冷静な声が掛けられる。
「副長、局長の特技はご存知ですね?」
「あ?ああ、あれだろ、拳を丸呑みだろ?」
「そうなんだよ、それをなぁ、昨日やったんだ。千鶴君の前で・・・。」
「・・・。」
勘のいい土方は、近藤のその一言だけで今の千鶴の言動を理解する。
要するに、デカイ拳を丸ごと口に入れた近藤を見て、いつか自分も果ては土方や烝までも食われてしまうのではと、千鶴は怯えていたのだ。
「それで・・・さっきは俺が食われないように守ろうとしてくれたのか・・・。」
人食いのように言われて落ち込む近藤を余所に、土方は小さな千鶴が自分を守ろうとしてくれた事に感動を隠し切れない。
「千鶴!!お前ってヤツは!!」
「としちゃ!ちるる、としちゃ、まもりゅよ!」
ひしっと抱き合う親子を尻目に、烝は淡々と言葉を続ける。
「副長、親子愛を再確認し終えましたら、千鶴君の誤解を解いて下さい。でないと、いつまでも局長が人食い扱いです。」
「あ?ああ・・・そうだったな、うん。」
涙目の顔を上げた土方は今更思い出したように、再度千鶴へ近藤の特技を説明しだす。
「千鶴、近藤さんのあれはな、宴会芸だ。」
「えんかい?」
「そうだ、皆で飲んで食って騒ぐ時に、面白ぇ事をして笑わせる芸だ。たまに手品とかやってくれる隊士がいるだろう?それと一緒だ。」
「いしゃむ、てじにゃぁにゃ?」
「いさ・・・てじにゃぁにゃ??千鶴・・・近藤さんは局長なんだ。さすがに呼び捨てはまずいだろう。」
「いやいや構わんぞ、トシ。そうだ!何なら、俺の事を父上と呼んでくれんか?千鶴君!」
誤解の解けつつある千鶴に、遠くから近藤は手を合わせて突拍子もない事をお願いしだした。。
「ばっ・・・父上って、近藤さん・・・!?(そりゃ俺が呼ばれてぇ!!)」
「ちちうぇ〜?」
「そうだ!君の父は網道さんだが、義理の父が他に居ても構わんだろう?だから、網道さんは父様、俺の事は父上と呼んでくれ!」
「ちちうえ・・・ぱく、しない?」
「しない!絶対に君を怯えさせる事はもうしない!千鶴君が嫌ならあの芸も一生封印してもいい!」
「・・・・ちちうえ〜。」
穏やかな笑顔に安心したのか逞しい胸板をドンと叩いて宣言する様子に安心したのか、拳を固めて天を仰ぐ近藤へ
千鶴はオズオズと近付いていく。
「そうだ!ここでは俺が君の父上だ!なぁ?トシ。」
「あ・・・ああ・・・。そう、だな。」
「副長、顔が引き攣ってます。」
「っるせぇ!仕方ねぇだろ、近藤さんにあんな顔されちゃぁよ。」
「ちちうえ〜。」
「お〜千鶴君は本当に可愛いなぁ?よ〜し、金平糖があるんだ、一緒に食おうじゃないか。」
「あい〜、ちるる、ちちうえといっしょたべゆ〜。」
「あ!近藤さん!あんま食わせ過ぎたらまた腹壊すから!!」
慌てて二人を追う土方と、そんな土方にお構いなしな近藤と千鶴。笑顔で去って行く二人と引き攣った面持ちで追う土方を見送りながら
烝は一人複雑な心境だった。
(副長が養い親で、局長が義理の父。確か山南総長もご執心だったな。・・・あまり、千鶴君に近寄らない方が身の為か・・・)
千鶴の初恋相手として周知の烝は、我が身の保身と可愛い笑顔を天秤に掛け、
常に命の危険と隣合わせな日々を過ごす羽目になる未来に憂いを隠し切れずに溜息を吐くのだった。



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