新選組保育日記

E〜山南さん〜
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まだ西洋文化に馴染むには遠い時代
新選組も例外に漏れず
物珍しいモノに群がる集成は隊士であっても変わらぬようで・・・。


『 ○月×日 ゆきむら ちづる
 
 きょうはきらきらはじめてみた
 きらきらさらさらとしちゃといっしょ、きれいだったよ
 もっとさわりたかったけど、めってされた
 あしたはさわらせてくれるかな 』

子煩悩な副長土方歳三。
最近愛娘(?)の千鶴の日記も大分解読できるようになったものの、今朝の日記は正に意味不明。
(きらきらさらさら???何の事だ・・・!?千鶴!?)
意味不明な文章ではあるものの、千鶴はそれを今日も触りに行くらしい。しかしそれが何なのかさっぱり判らない。
それは昨日の昼下がりの出来事。
千鶴はいつものように非番の隊士(主に幹部であるのだが、今日は新八と左之だった)に中庭で遊んで貰っていた。
「見ろ!千鶴!この色と言い形と言い艶と言い、申し分ない完璧な泥団子だ!」
「ふわ〜〜ぱっちゃんしゅごい〜〜!ちるるにちょ〜だい?」
「ふっふっふ、どうすっかなぁ?俺の汗と涙の結晶だからな〜?」
「新八・・・馬鹿言ってねぇでやれよ、泥団子くれぇ。」
「馬鹿野郎!そんなすぐにやったら面白くねぇだろ!?」
「ガキか、お前は・・・。」
高く手を上げて千鶴から泥団子を遠ざける新八。必死に飛び跳ねてそれを取ろうとする千鶴。
戯れる二人は気付いていなかったがこの時、とある人物が後ろから近付いてきていた。
「や〜〜〜ちょ〜らい!ちょ〜らい!ぱっちゃんちょ〜らい!」
「お〜し、ここまで来れたらやるぞ〜?」
「あ、新八!!後ろ!」
更に高く掲げた泥団子。必死に追いかける千鶴。後ろ向きに走る新八。
しかしその後ろには・・・。
ドンっグシャっ・・・。
嫌な音と誰かにぶつかった感触に、新八は恐る恐る首だけでぎりぎりと振り返る(嫌な予感がし過ぎて体毎は向き合えない)
そこに立っていたのは、穏やかとは程遠い笑顔で、頭から泥団子を被った山南敬助総長その人である・・・。
「っげ!!山南さん!!?」
「げっとは何ですか、げっとは。それは私の台詞だと思うのですが?永倉君。」
「いや〜〜その〜〜・・・。すんません・・・。」
言い訳をしても泥の塊をぶつけてしまった事に変わりは無い。素直に頭を下げた新八に、千鶴も真似をしてペコリと頭を下げる。
「ごめちゃ〜。」
「・・・おや、この子が噂の千鶴君ですか。土方君の愛し子ですね。」
「あい、としちゃのちるるれす!」
いや、別に土方さんの子じゃねぇから。とは二人とも思ったが、冷ややかな笑顔を見るに機嫌が極悪なのが推し量れ過ぎて何も言えない。
そんな二人を余所に千鶴は興味深そうに山南をじっと見上げたまま動かない。
「どうしました?いきなり人の顔をジロジロと。やはり土方君の教育が悪いのでしょうか?」
「ちがうよ?としちゃわるないよ・・・おにちゃ・・・きえいね?」
「は・・・?」
「おめめきらきら?あたましゃらしゃら?なでなで、だめ?」
「・・・・原田君。彼女は何を言ってるんですか?さっぱり意味が判りませんが。」
「あぁ・・・千鶴?山南さんがどうかしたか?」
目線を合わせて意味を訪ねると、千鶴は目を輝かせて飛び跳ねる。
「しゃんにゃんにゃん?おにちゃのおなまえ?」
「違います。私の名前は山南敬助です。変な風に呼ばないで下さい。」
「しゃんにゃん?おめめ、きらきら〜、きえいね?あたましゃらしゃらなの、なでなでしたい。」
「あ〜〜、千鶴。山南さんは、猫じゃなくって、山が三つ。さ・ん・な・ん、だ。」
「しゃんにゃん?」
「違います。山南です。」
「・・・・しゃんにゃん・・・?」
「さ・ん・な・ん・け・い・す・け!です。」
「・・・ふ・・・しゃん、にゃん・・?」
「原田君、次に会うまでにこの子に私の名前をしっかり教えて置いてください。」
「うぃっす。あ、ちょっと待った山南さん!」
「何ですか。」
「ちっとでいいんで、千鶴に髪。撫でさせてやってくれねぇかな?髪がさらさらで綺麗だから、触りたいってさっき言ってたんだ。」
「・・・女性でも有るまいし、髪が綺麗と褒められても嬉しくなど無いですよ。・・・少しでしたら、いいですが・・・。」
「だってよ、千鶴。ほれ、泣きそうになってねぇで。触らせて貰って来い。」
「いいにょ?」
「少しなら構わないと言ってるでしょう?さっさとしないと行きますよ、私も子供と遊ぶ程暇じゃないんですから。」
「ごめちゃ〜〜なでなでしゅるからまって〜〜!!」
躊躇する千鶴に煩わしそうな視線を向け立ち去ろうとする山南に、負けずにぴょんと飛びつくとまずは眼鏡に触り出した。
「・・・触るのは髪ではなかったんですか?」
「いや・・・目がきらきらって言ってたんで、多分両方だと・・・ちっとだけ、我慢してやってくんねぇかな?」
「・・・少しですからね。」
ぶすっとした顔で千鶴に好きなように髪だの眼鏡だの触らせる山南。
千鶴はそんな彼の顔をじっと見つめると、にぱっと嬉しそうに微笑んで、さらに髪を撫で続ける。
「きえいね〜しゃんにゃんのあたましゃらしゃら〜。おめめもきらきら。きえいね?」
無遠慮にベタベタと撫でたくる千鶴に、顰め面だった山南。しかし満面の笑顔攻撃を正面から受け止めてしまい、脳天直撃。
大きく溜息を吐くと、再び呼び名の訂正を始める。
「私はしゃんにゃんではありません。そんなに呼び難いのなら敬助で結構です。」
「けしゅけ?」
「けいすけ!」
「あい、けいちゃ!」
しゅたっと挙手し、満足したように山南を呼ぶ千鶴にさすがの山南も、瞬殺でその愛らしさに目尻が下がり出す。
その様子に安心したのか千鶴は更に大胆に山南の眼鏡を触りまくっている。
「そ、そんなに触りたいなら、眼鏡を掛けてみますか?」
「ほぇ〜?おめめきらきらとったらだめよ、いたいいたいなるよ!」
千鶴の中では眼鏡自体が顔の一部として捉えられているようで、眼鏡を外そうとする山南を慌てて止める。
「優しいんですね?あの養い親の割に、まともに育っているようで一安心ですね。ところで千鶴君?」
「あい?」
「頂き物のお菓子があるんですが・・・食べますか?」
「おかし!たべちゃい!・・・けど・・・。」
「おや、どうしました?」
「そいつ、前に菓子の食い過ぎで腹壊した事あんだよ。」
「私は土方君のように欲しがるからとお腹を壊す程与えませんから大丈夫です。」
「いや・・・土方さんじゃなくて近藤さんが与えたんだけど・・・。」
「・・・・。と言う訳で行きましょうか、千鶴君。異国の珍しいお菓子なのですよ。」
(俺の台詞完全無視された・・・)
仲良く手を繋いで歩く二人は、すっかり打ち解けているように見える。
(山南さんすら懐柔するとは・・・恐るべし攻撃力だな、千鶴の笑顔は)
後でこれが土方にバレた時のとばっちりが来ませんようにと祈る原田の気も知らず、その日千鶴は一日山南と共に過ごし、夕餉の時刻手を繋いで現れた二人に土方の怒髪が天を突く。
「うちの千鶴が世話になったようだな、山南さん。俺の仕事は終わったからもう大丈夫だぜ?」
「いえいえ、千鶴君がいたく私をお気に召して下さったようで、なかなか解放してくれなかったんですよ。
遅くまですみませんでしたね。」
「ほ〜そうかい、千鶴は珍しいモンには何にでも興味持つから困ったもんだ。」
「ふふふ・・・養い親に似ず、素直な心根の持ち主なんでしょうね。何なら今後は私が引き受けて差し上げますが?」
「い〜や、それには及ばねぇよ、山南さん。千鶴の面倒は俺が責任持ってきっちり見るからよ。」
「・・・。」
「・・・。」
((((こ・・・こえぇ〜〜っ!!)))
冷戦と書いて貶し合いと読め的な睨み合いを続ける二人に、思わぬ所から横槍が入る
「けいちゃ、としちゃとなかよちちがう?ちるる、おかちたべたから?としちゃ、めっしゅる?」
「な・・・仲良し、だ。」
「土方君に怒られてる訳ではないんですよ。私達はと〜〜〜っても!仲良しですからね。千鶴君は可愛いと話していただけです。」
「あい、ちるるかわい?ふたぁり、なかよち!あくちゅ!」
円らな瞳が冷戦真っ盛りな二人を直撃した事で、一気に戦局は握手を交わし協定条約を結ぶまでに落ち着きを見せる。
二人の眉間の皺も千鶴の笑顔の前には消し飛び和やかな空気の中、平〜〜〜〜〜〜和な!夕餉となった。

その夜。
「千鶴?そんなに山南さんが気に入ったのか?」
「あい、けいちゃ、あたましゃらしゃら、としちゃといっしょ!きもちいい!」
要するに、山南の髪が土方同様、真っ直ぐでさらさらだったから気に入ったらしい。
何も知らない山南は、その日から髪の手入れを今までより更に丁寧に行い始め
千鶴から嬉しすぎる事実を聞かされた土方は心の中で山南に悪態を吐きつつ、愛し子を抱き締め幸せの絶頂の中眠りに就く。
この二人の争いに終止符が打たれる日は、まだまだ遠そうである・・・。
新選組副長と総長の諍いを治められるのは、京広しと言えどきっと千鶴だけだろうと、皆が思った。

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