新選組保育日記

D〜一君〜
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武士と言う者は基本髪を結っている。
髷を結っている者、長い髪を高く結い上げている者。
それぞれではあるが、大概は後ろで括られている。
たまに、例外もあるが・・・・。


『○月×日  ゆきむら ちづる
 
 みんなのあたま しっぽある
 けど はじめのあたま しっぽない
 はじめだけ しっぽない なかまはじゅれはさびしいの』

今日も今日とて勝手に千鶴の日記を読む土方(既に日課になりつつある)
意味不明な内容に首を傾げる。
(尻尾?頭に尻尾?はじめってのは、斎藤の事・・・だよなぁ?)
考えても判らないなら直接聞こうと千鶴の元へ向かうが、聞くまでもなく、尻尾の謎は解明する。
「しっぽしっぽ!へいちゃ〜しっぽ!!」
「わ〜〜!!かったわかった!触らせてやるから飛びつくなっての!」
平助にぴょんぴょん飛びつく千鶴は、平助がしゃがんでやると、満足そうに高く結われた髪にじゃれ始める。
「だ〜、俺の髪は玩具じゃねぇっての。」
「いいじゃねぇか。高く結ってあるから、俺らのより揺れてんのが面白ぇんだろうよ。」
「へいちゃ〜しっぽ、とれない?」
「あ?あぁ、解いたら無くなるぜ。解いてやろうか?」
「ん、いい。しっぽないさびしい。」
「はは、千鶴?俺にもあるぜ?尻尾。」
「うん、しゃにょにもしっぽ!そうちゃもしっぽ!あるね!」
「そうだねぇ、皆尻尾あるね、千鶴ちゃんとお揃いだね?」
「・・・みんな、おしょろい?」
「うん、み〜んな、お揃い。嬉しい?」
「・・・ううん、みんなちがう。ちるるうれしない。」
「へ?皆じゃないの?どうして?」
きゅっと眉間に皺を寄せた千鶴は、きょろきょろと辺りを見回し、とある人物を見付けるとちょこちょこと駆けて行く。
「はじめ〜〜〜!!」
巡察帰りの斎藤は、千鶴の声を聞きつけると微かに顔を綻ばせ自分の元へ駆けて来た幼子を抱き上げた。
「良い子にしていたか、千鶴。」
「あい!ちるるいいこ。はじめ、おしょろいしない?」
「お揃い?何をだ?」
「尻尾だよ、斎藤君。多分僕らは髪を後ろで括ってるけど、君だけ横なのを言ってるんじゃない?」
「そう言えばそうだな〜。何で?」
「特に理由はない。ただ、この方が簡単なだけだ。」
「だってよ、千鶴。」
しかし千鶴は難しい顔で考え込んだまま、表情は優れない。
「どうした、千鶴。俺の髪がそれ程気になるのか?」
「はじめ、おしょろいいや?ちるるとおしょろい、しない?かちゃなもおしょろい、ちがう。なかまはじゅれさびしいよ。」
「あ〜千鶴?一君の刀が逆なのは、仲間外れとかじゃなくってな?」
「みんな。はじめなかまはじゅれ、いぢわるしゅる?はじめ、さびしい?」
「聞けって千鶴。」
平助が必死で仲間外れにしている訳ではないと説明するが、千鶴は右耳から左耳。必死に斎藤に語りかけて聞いていない。
「斎藤、お前が直接説明しねぇと納得しないみてぇだぞ?」
「頼むから俺らが仲間外れにしてんじゃねぇって言ってくれよ。じゃねぇと俺らが千鶴に嫌われちまう!」
それだけは嫌だ!!天下の新選組。その幹部が揃いも揃って三歳児に振り回されるのもどうだろうと、斎藤は内心溜息を吐いたが、
平助や左之の言う分ももっともな話。何より自分の事で千鶴の小さな胸を痛めるには忍びない。
「千鶴、俺は別に仲間外れにされている訳ではない。髪を横で括るのも、刀を右に差すのも、俺の都合であって他の者には関係がない」
斎藤の目を覗き込んで話を聞いていた千鶴は、一瞬納得しけたようだったが、やはり被りを振って嫌々をする。
「や!はじめ、おしょろい!ちるるとおしょろい!」
どうやら斎藤が自分と同じ髪型で無い事に嫌がっている千鶴は、頑ななまでに『お揃い』を連呼しつづけ、泣きそうになっている。
「斎藤、わりぃんだが・・・今だけ後ろで括ってやってくれねぇか?それで満足すると思うからよ。」
泣きそうな千鶴に根負けした土方が斎藤に頭を下げる。しかし斎藤は何故か否と首を振った。
「何で?いいじゃん、今だけだし。何なら俺が結ってやろうか?」
「結構だ、そういう問題ではない。例え今、後ろで括った事で納得したとしても、根本的な解決にはならない。
嫌だと泣くからと全て言うなりにするのは、千鶴にとって良くはないだろう。違いますか、副長。」
「いや、まぁ・・・そうなんだが・・・。」
「千鶴、俺は別にお前や皆と同じにしたくない訳ではない。刀の差し方が違う事も、仲間外れにされての事ではない。」
「なかまはじゅれ、ちがう?」
「ああ、そう言う事ではなく、俺の信念が皆と違う方へ刀を差す事に繋がっている。」
「しんにぇん・・・?そえ、なに?」
「己の信ずるモノだ。貫きたい想いだ。千鶴には守りたいモノはないか?何を犠牲にしても、守るべき想いはあるか?」
「まもりゅ・・・ちるる・・・としちゃとやくしょく、まもりゅ。みんなといっしょ、まもりゅ。みんなだいじ。」
小さな口から発せられた言葉の意味に、全員揃って倒れ付す程殺傷能力の高い千鶴の笑顔に、
斎藤も淡い微笑みを深くして、抱き上げた腕に力を込める。
「そうだ、その守りたい想いが信念を貫きたいと言う想いだ。俺が刀を右に差すのは、そう言った想いが元になっている。
だから刀を皆と同じに左に差す事は、即ち守りたい想いを否定する事に繋がるのだ。判るか?」
「あい・・・ちるる、わかった。」
「良い子だ。だが、俺が除け者にされていると心配してくれた事には礼を言わねばならんな。ありがとう、千鶴。」
「ちるる、いいこ?」
「ああ、とても良い子だ。千鶴は今のまま変わらないでくれ。それが俺達の救いになる。」
「ちるるはずっといっしょよ?ちるるはちるる!」
「ふ・・・そうだな、千鶴は千鶴だな。」
頬を寄せ合い仲睦まじい二人に半ば妬きながら、千鶴が泣くからと願いを叶えようとした面々はそれぞれ反省するしかない。
幼子をあやす為に全て言いなりにしていたのでは我侭なだけの大人になってしまう。
それを斎藤に諭された皆は、今後心を鬼にして千鶴に接しようと固く誓い合った。

「はじめ〜かみのけいっしょはしない?」
「俺はこの括り方が好きなんだ。皆と一緒にはしない。」
「しょれも、しんにぇん?」
「いや、ただの好みだ。」
「じゃあ、いっしょしよ〜!はじめいっしょ!ちるるとおしょろい〜〜」
「だって、一君。刀はともかく髪の毛は構わないだろ?」
「そう言う問題ではない。」
「いいじゃねぇか、ちょっと位。まっすぐ結えない訳でもあんのか?」
「そんなモノはない。」
「じゃあいいじゃん。ってか、そこまで嫌がられると逆に後ろで括ってやりたくなるよな。」
「そうだな・・・。」
「待て、お前達・・・何をする気だ・・・。」
「何って・・・・髪結いごっこ?」
じりじりと結い紐片手に迫り来る幹部から、その日一日斎藤が逃げ回っていた風景はある意味滑稽だったかもしれない。
「千鶴?斎藤とお揃いじゃなくても俺と一緒だからいいじゃねぇか。それとも俺とだけじゃ、寂しいか?」
「・・・・・ううん、としちゃとだけいっしょ、いいよ。」
にこ〜と笑う千鶴に満足した土方は、未だ遠くで聞こえる珍しい斎藤の怒鳴り声に苦笑を漏らす。
「ま、しっかり逃げろよ、斎藤。千鶴はもう寝る時間だな。」
「あい、ちるるねむたい。」
「よし、源さんや近藤さんにおやすみしに行くぞ。」
「あ〜い。」
千鶴が元気よく手を上げた夜、屯所の中には未だ斎藤を追い掛け回す幹部の姿があった。
「待てって!一君!」
「斎藤!観念して待ちやがれ!!」
「お前ら・・・いい加減にしろ!切るぞ!!」
「斎藤君と手合わせ出来るなら願ったりだね!」
明日の斎藤の髪型を楽しみにしつつ、今宵はここまで・・・。


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