新選組保育日記

C〜一目惚れ〜
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父性本能と言うモノが動物には皆備わっているように
恋心もまた、乙女には必ず備わっているようだ。
それはうら若き乙女から老女、果ては幼女であっても変わらない不文律。


『○月×日  ゆきむら ちづる
  
 きょうはぽんぽんいたかった
 くまさんせんせいこわかった
 でもすすむはきれいだった
 ちづるはすすむのおよめさんになる』

・・・。
いつものように、日課である千鶴の日記を読む土方。
その背中が、最後の一文にビシリと固まる。
「・・・・よ・・・・よ・・・め・・・?」
遡る事前日の朝。
千鶴は朝から食欲が無いようだ。
「千鶴?何か、あんま食ってねぇみたいだけど、嫌いなモンでもあったか?」
「そりゃねぇだろ、千鶴は嫌いなモンでも残さず食うさ。」
「そういや、元気ねぇか?」
「・・・腹が痛いのか。」
「よく判ったな斎藤。実は明け方からちっとばかし腹がいてぇらしい。」
「え!?まじ!?やべぇじゃん!!医者は?医者!!」
「すぐ医者連れて来い!!」
「千鶴〜〜!!死ぬな〜〜!!」
「布団敷け!」
「薬は!」
「あったかくした方がいいだろ!?」
『少々』食が細くなり、『少し』腹が痛い千鶴。
その千鶴を囲んで新選組幹部がてんやわんやの大騒ぎ。
(こいつら・・・千鶴馬鹿だろ)
そう思う貴方も他人の事言えませんね、夏だと言うのに山程厚着させてる土方さん!
「っうるせぇ!医者!まだか!!」
医者医者と騒ぐ内、のっそりやって来たのは松本良順。
千鶴の父である網道を探す唯一の手掛かりであった男。
数日前に近藤に連れて来られた良順は、ぽりぽり頭を掻きながら申し訳なさそうに頭を下げた。
「わしも網道さんの行方は知らんのだ、力になれなくて、すまんな千鶴君。」
立派な体躯にツルリとした禿頭が、千鶴はいたくお気に召したらしく、「くましゃんしぇんしぇ〜」
とすぐに懐いていた。父の行方が知れない事よりツルツルした頭の方が気に懸かったらしいのだが、ある意味禿頭に負けた網道もお気の毒・・・。
「遅くなったな、患者は千鶴君か?」
「ああ、すまねぇ朝っぱらから。」
「構わんよ、わしも千鶴君に会えるのは嬉しいしな。ほ〜れ、おいで〜〜。」
「あ!くましゃんしぇんしぇ〜〜」
じくじく痛むのだろうか、蹲っていた千鶴は、それでも良順を見るとぱっと顔を輝かせた。
「よしよし、腹が痛いんだな?ちょっと見せてくれ。山崎君、湯を貰ってきてくれるか?」
「はい、師匠。」
良順が監察方であり、弟子でもある烝に用事を言いつけると、無駄の無い動きですぐに湯を持って来た烝は指示を受ける前に手拭を湯に浸す。
その間、何故か千鶴の視線は烝にびったりと合わされている。
「俺は山崎烝だ。雪村千鶴君だな?すまないが、少し腹を触るぞ?」
烝が千鶴の着物に手を掛けると、急に千鶴は真っ赤になって土方の元へと逃げ出してしまう。
「・・・・や!」
「は・・・?」
それまで良順の診察を嫌がらなかった千鶴が、何故か烝が触れようとすると途端に顔を顰めて嫌がってみせたのだ。
「あれ〜、珍しいなぁ。千鶴が人見知りしてる!」
「マジで?初めて見たぞ。」
「烝く〜ん、嫌らしい触り方したんじゃねぇの〜?」
眉間に青筋を立てる保護者を余所に平助が烝をからかうが、当の烝は初対面な上、触る前に拒絶されたのでさっぱり訳が判らない。
「いえ・・・まだ触れてもいませんが・・・。」
烝本人も幼女に思い切り拒否されて動揺を隠し切れないらしい。
「千鶴ちゃん、お医者様にちゃんと見てもらって、早く治さないと遊べないよ?」
真っ赤な顔で俯き土方の腕の中に隠れる千鶴に、皆一斉に説得を試みる。
「う〜・・・・。」
「大丈夫だって!ちょっと触ってみるだけだし!痛い事ねぇから!」
「薬は苦いかもしれんが滋養の為だ、我慢しろ。」
「う〜・・・・。」
「怖がってる訳じゃねぇのか?」
「何か、嫌がってるってより、これは・・・。」
そう、嫌がっているようには見えないのだ。
頬を赤く染め、ちらちらと上目使いに烝を見上げる。烝が手を差し伸べようとすれば、ぱっと顔を逸らしてしまう・・・。
(一目惚れじゃん!!!??)
と、皆思っても口には出さない。何故なら超が付く程に過保護になった土方のこめかみに、更に青筋が増えていたから。そんな空恐ろしい事は決して口に出来ない。
その間に、烝は千鶴の前に座り込み、目線を合わせると、滅多に見せる事のない、と言うより隊士の誰もが始めてみる笑顔で千鶴に手を差し伸べる。
「痛い事などしない。大丈夫だから、こちらに来てくれないか?診察が出来ない。君もいつまでも痛いままは嫌だろう?」
すると、頑なだったさっきとは違い、嬉しそうに顔を綻ばせた千鶴が烝の腕へとしがみ付いた。
「よし、いい子だ。師匠に診ていただけば、きっとすぐ良くなる。」
「あい、ありあと〜。んと・・・すむ?」
「す・・・烝・・・だ・・・」
「・・・すむ?ちがう?ちるるちがう?」
何か間違ったのだろうかとおろおろと辺りを見回す千鶴に、幹部は大丈夫だと頭を撫でて、何故か烝が叱責を受けてしまう。
「い〜じゃんか!もうすむでさ!」
「そうそう可愛いあだ名じゃねぇか、なぁ?」
「山崎君イチイチ細かい事気にしてたら禿るよ。」
「そりゃわしへの挑戦か、沖田君。」
「山崎君、あまり気にするな。気にしたら最後千鶴とは付き合えねぇぞ。」
「もう!!みんな、すむいじめたらめっ!なの〜〜」
自分が間違ったらしいのに烝が叱られている事に我慢出来なかった千鶴は、ぷんぷんと頬を膨らませる。
のだが、いかんせん千鶴の仕草は可愛いだけとしか映らないので皆の笑みは深まるばかり。
「すむ・・・・ごめんね?ちる、ちがったごめんね?」
指を銜えて瞳を潤ませる幼女に謝られては、烝も妥協せざるを得なくなる。
「いや、君は何も間違っていない。」
「ほんちょ?」
「本当だ、だから診察をさせてくれないか?」
「あい、ちる、いいこしゅる!」
最初の拒絶が嘘のように烝の言うがまま、成すがままの千鶴に幹部ははらはらしどうしだ。
可愛いのだが、非常に愛くるしいのだが、その分増えていく土方の眉間の皺が怖すぎる!
どう見ても烝に一目惚れしたらしい千鶴は、さっきからずっと烝の膝の上から離れないのだ。
鬼の副長が、隊士にヤキモチを妬いて機嫌が悪くなっていく様は、実に滑稽かもしれない。
「副長、少し食べ過ぎのようです。昨日間食をさせましたか?」
「あ〜?俺はやってねぇ。俺はやってねぇが・・・。」
「あ・・・。近藤さんが、馬鹿みてぇに饅頭食わしてた気がする・・・。」
「ちなみに、いくつ食ったんだ、千鶴。」
「んちょ・・・こんだけ!」
しばし考えた後、千鶴は片方の手を広げ、もう片方は指が二本・・・。
「七つ!?確か晩飯も普通に食ってなかったか!?」
「明らかに食い過ぎです。副長、今日明日と千鶴君の食事は粥にした方がよろしいかと。」
「判った・・・そうさせる。」
「千鶴君、饅頭が旨かったのは判るが、だからと言って食べ過ぎては今のように腹を壊す。何より副長にも心配をかけてしまう。」
烝のその一言に、きょとんとしていた千鶴は一気に顔を曇らせ土方を見つめた。
「ちるいたいいたいなる、としちゃなく?」
「そうだな・・・。泣かないまでも、きっと悲しくなるだろう。千鶴君も、副長が痛そうだと悲しくないか?」
「・・・としちゃ、ごめんね?ちるる、もういたいないよ?」
ずっと陣取っていた烝の膝の上から、ぱっと立ち上がってすぐに土方の膝へとよじ登る。
「千鶴・・・。俺の心配してくれんのか?」
「としちゃいたい?かなしいいっぱい?」
烝への恋心よりも、どうやら土方への親愛の情の方が勝っていたらしいと判ると同時に、自分を心配する千鶴が愛しくて堪らなくなる土方。
目一杯抱き締めると頭を撫でてやる。
「痛くねぇし、悲しくもねぇよ、千鶴がちゃ〜んとお利口にしてんならな。」
「あい、ちるるいいこしゅる!おやちゅ、いっぱいたべゆの、めっ!ね?」
「そうだな、少しくれぇならいいが、沢山は駄目だ。」
「あい、としちゃやくしょく、しゅる?」
「いいって、約束しちまうと、食いたい時に食えねぇぞ?いいのか?」
「あぅ・・・。」
「千鶴、少し位なら平気だって。俺らがちゃんと止めてやるから、もう土方さんに心配かけなくていいぞ。」
「へいちゃ、ありあと。みんなありあと。しんぱいごめんね?」
皆が自分を心配してくれた事。心配をかけてしまった事。反省しつつ、感謝の気持ちを伝える千鶴に皆は一様に和むが・・・。
その日の夜。
「千鶴?何で山崎君に触られるのを嫌がってたんだ?」
「・・・すむ・・・きぇい・・・ちるる、はずかちぃ。」
ぽっと頬を染めて俯く姿は正に恋する乙女そのもの。
「そ・・・そうか・・・千鶴は、山崎君が好きなんだな。」
「あい・・・ちるる、すむしゅき。」
俺とどっちが!?と聞きたいが聞けない土方は、翌日から烝に対して微妙〜〜な対抗心を見せるようになるが、隊士にとっては笑い話。
烝にとっては、些か理不尽な嫉妬だったりした。
小さくっても乙女な千鶴の恋は、前途多難・・・かもしれない。

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