1/1ページ目 近頃屯所では、毎朝響く怒鳴り声。 今朝も昨日と同じ声、同じ内容の怒鳴り声が響き渡る。 『○月×日 ゆきむら ちづる きょうもとしちゃにおこられました。 ちづるはがんばってるけど、やっぱりしっぱいしちゃいました。 あしたもしっぱいしたらとしちゃはちづるをきらいになるかな 』 土方はたどたどしく書かれた日記らしき物を読んで、大きく肩を落とし嘆息する。 (別に、怒りたくて怒ってんじゃねぇよ) しかし感情と理性は別物。 普段から些か短気な土方に、相手が幼いからと言う理由は通用しない。 そうして、今朝もまた怒鳴り声が響くのだ。 「千鶴〜〜〜!!!!」 「ふぇ〜〜〜!ごめちゃ〜〜!としちゃ〜〜!ごめちゃ〜。」 「あ〜あ・・・またやっちまったか〜。」 「ってか、しょうがねぇんじゃね?まだ三つだろ?」 「だよね?土方さん大人気ないよ、ちょっとは寛大にならなきゃ。」 「・・・何故そうなるのか原因から究明すべきだな。」 「千鶴〜泣くな泣くな、おら、こっち来い。」 「おっ前ら!他人事だと思いやがって!」 「だって、他人事だし?」 総司の一言に、ブッチンと、土方の何とか袋の緒が切れたと、この時誰もが思った。 「てめぇらなぁ!!毎日毎日!こいつが来てからずっと! 寝小便垂らされる身にもなりやがれ!!!」 そうなのだ。 千鶴はまだ三つ。あまりに幼すぎて毎日土方の布団を濡らしてしまうのだ。 そうして毎日毎日土方が!布団を洗う羽目になるのだ。 千鶴はと言えば、隅に縮こまってしまっている。が・・・てとてとと土方の膝に乗ると、皆に向かって怒り出す。 「としちゃ、わるくないの!めっしたら、だめなの!」 自分が悪いのに、土方が叱られていると思ったらしい。 そんな千鶴に思わず頬が緩む一同。 「けど、何でだろうな?」 「寝る前に茶飲んだりは?」 「させてねぇ。便所にも行かせてる。」 「ん〜?何でだろうな〜?」 「この年頃の女の子ってのは判んねぇな〜。」 (この年頃じゃなきゃ判るんだ?) 内心の疑問を口に出さず、平助は左之助に問い返す。 「ってかさ、女の子とか関係ないんじゃん?」 「だろう。三つなんて、そんな違いねぇだろ?」 「・・・不安、なのではないか?」 「「「「え・・・」」」 ぽつりと一が洩らした一言に皆が注目する中。一は千鶴を抱き上げて、問い掛ける。 「千鶴、父が居なくて寂しいか。」 「う〜〜〜ちょっと・・・。でも、みんないるから、さみしいないよ。」 「では、父が見付からなくて怖いか?」 「・・・・こわく、ないも。としちゃ、やくしょくしてくえた。」 千鶴はそう言うが、瞳は不安に揺れている。その答えに、皆がなるほどと納得する。 たった一人、父を捜して旅をしてきた。しかし肝心の父は行方知れず。 土方が必ず見つけると約束したモノの、小さな体にその不安の大きさは図り知れない。 「子供の不安ってすぐ外に出るからな〜」 「それがオネショって訳か。」 「けど、どうしようもねじゃん?いますぐ網道さん見つけるったってさ。」 「不安が無くなる位安心させてやりゃいいんじゃねぇの?」 「・・・て、どうやって。」 「それは・・・やっぱ・・・。」 土方さんの役目だろ?無言の視線が土方の背中に突き刺さる。 うるうる揺れる千鶴の瞳は、じっと土方を見つめている。 安心させてやればいい。それは判っている。判り切っている。 だが・・・。 「千鶴、来い。」 両手を広げると、千鶴はてとてと走って抱き付いてくる。 離れないよう、しっかり着物を掴んだ千鶴を抱き合げた土方は一に声を掛けて屯所を出て行く。 「ちっと留守にする。後は任せた。」 「御意。」 千鶴を抱いたまま無言で歩く土方に、千鶴は不安気に問い掛ける。 「としちゃ?どこいくの?」 「ん〜〜どこ行くか、千鶴はどこ行きてぇ?」 「ちる?ちるは、どこでもいいよ、としちゃといっしょ、どこでもいく。」 「そうか・・・。千鶴は俺が好きか。」 「あい、としちゃ、しゅき。」 「けど、親父さんのがいいんだな〜。」 「・・・。」 「あのな、千鶴。俺がおめぇを嫌って怒ってんじゃねぇってのは、判るか?」 「あい・・・ちるがおねしょしゅるから、ちるがわるいの。」 「まぁ、それはそうなんだが・・・。おめぇの寝小便は、俺のせいだと思ってる。」 「としちゃ?としちゃせいちがうよ?ちるがわるいこ、としちゃわるくないよ?」 「網道さんを探してやるって約束したろうが?なのに見つけられるか判んねぇ。 お前が不安なのは知ってる。なのに俺はそれをどうしてやる事もできねぇ。 自分で自分が、情けねぇ。おめぇみてぇな、ガキにまで気使わせちまってる自分がな。」 「としちゃぁ・・・・。」 「だから、泣くなって。あ、いや。泣いていいんだ。我慢しなくていい。 怖いなら怖いって言っていい。泣きたいときゃ、泣いていいんだ。 寝小便なんか、いくら垂れたって構わねぇよ。 お前がちっこい胸ン中で、何かを耐えてる方が辛れぇんだ。」 「う・・・としちゃ、ないちゃ、めする。」 「しねぇよ。」 「ないちゃ、きらいなる。」 「ならねぇ。」 「いっしょねんね、してくれゆ?」 「ずっと一緒に寝てやる。」 「ふ・・・う・・・・うわぁ〜〜〜〜!!」 堪えて堪えて、父が見付かるまで、土方に嫌われないように、小さな体に溜め困れてた不安も寂しさも 全部吐き出すように千鶴は泣いた。 土方はそんな千鶴の背中を優しく撫で続けていた。 屯所に戻ると、幹部一同の出迎えを受けた。 「土方さん!どうだった!?」 「あ!千鶴泣いた跡あんじゃん!」 「まさか土方さんが泣かせたの?」 「よく寝てんなぁ?」 「もう大丈夫だろう。」 「うるせぇ!こいつが起きるだろうが!」 ひたすら小声で怒鳴る土方に、皆顔見合わせて笑い合うが、今日の土方はそんな事ではキレたりしない。 「寝かせてくら。」 よっこらと千鶴を抱き直し部屋とも戻る土方を見て、幹部の胸の内はある意味複雑だった。 (鬼の副長が・・・保父さんか) (新選組も形無しだよね〜) (立派な親子だな・・・) (土方さん・・・肩・・・鼻水・・・) 「ゆっくり休めよ、千鶴。」 泣きつかれて眠った千鶴に、優しく布団を掛けてやりながら土方も眠りに落ちた。 ー翌日 「おお!やったな、千鶴!!」 「あい!ちる、おねしょしない!」 新選組に来てから初めてオネショをしなかった事に、土方も千鶴も、他の一同も満面の笑みで諸手を挙げて喜ぶ。 「少しは不安が解消されたって事か?」 「そういう事だろう。どうやったかは、知らんが。」 「さすが副長〜。」 「あ、じゃあさ、今夜は僕と一緒に寝る?」 「そうちゃんと?」 「総司と〜?おいおい大丈夫かよ。」 「左之さん変な心配しないでよ、僕だって千鶴ちゃんは可愛いと思ってるよ。いいでしょ?土方さん。」 「まぁ、千鶴がいいなら構わねぇが・・・大丈夫か?」 「あい、ちるもうおねしょないよ!」 「そ、そうか・・・お前がいいなら、構わねぇよ。」 そう言う土方の背中が少し落ち込んで見えたのは気のせいだろうか?皆が思った更に翌日・・・。 「え〜〜〜〜〜!!!!何で〜〜〜!!??」 「ふぇぇぇ〜〜〜そうちゃ〜〜ごめちゃ〜!」 総司の布団には、見事な日本地図が描かれていた・・・。 「要するに?」 「土方さん以外だと。」 「まだまだ不安っと。」 「既に立派な親子だな。」 「って皆ちょっと酷いよ!」 「千鶴、こっち来い。」 「ふ〜〜としちゃ、ごめ〜〜。」 ぐしぐし泣き濡れる千鶴を抱き上げて、土方は逆によくやったと褒めていた。 口にこそ出さなかったが、千鶴が土方以外に添い寝させた事が不満だったのは 誰が見ても明らかだった。 ここに見事な親子が誕生したのは言うまでもない話。 「っていうか!今回僕って一番被害者でしょ!?」 あ、それはご愁傷様でした〜。 「ひどっ!」 [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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