新選組保育日記

O〜命の灯火〜
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眠い目を擦りながら、一晩中子猫を看病していた千鶴の目の前で、それは落ちていった。
「にゃん〜〜あさよ〜ごはんと、おくしゅり、かえましゅよ〜。」
千鶴が子猫の前にちょこんと座り壊れ物を扱うように抱き上げると、子猫は小さくか細い鳴き声を上げた。
「にゃん〜〜。しゃにょ、にゃんがないたよ、げんきなった?」
「千鶴・・・・ちょっと、お前山崎君呼んで来い。薬貰って来なきゃだろ?」
「くしゅりここにあるよ、すむがおいてくれてりゅよ?」
「いいいから!それじゃ足りねぇから貰って来い!」
思わず声を荒げた左之に、千鶴はびくっと肩を震わせ怯えたような目を向ける。
いつも優しい左之は、見た事のない厳しい顔になっていた。
「わりぃ!千鶴、その・・・メシに入れる薬、ねぇだろ?だからな?貰って来い、な?」
残された時間はもう僅か、出来るならその瞬間を千鶴に見せたくはない左之だったが、その努力は徒労に終わる。
「・・・?にゃん?」
千鶴の腕の中の子猫は、ぐったりと力無く頭を垂れてしまっている。
「千鶴・・・!」
「しゃにょ、にゃん・・・うごかにゃいよ・・・?」
「そう・・・だな、きっと疲れたんじゃねぇか?寝かしてやった方がいいだろ?」
「・・・しゃにょ・・・にゃん、うごかにゃいよ、うごかにゃい。」
「千鶴・・・。」
「にゃん・・・しんじゃった?」
少しずつ冷たくなる小さな体。固くなっていく生き物だったモノ。それをしっかり抱き締めたまま千鶴は左之を仰ぐ。
「千鶴・・・こいつは、きっと疲れたんだ。だから寝かせてやろうな。もう、ゆっくり休ませてやろうぜ。」
「にゃん、しんじゃった?」
「ああ・・・もう、動かないな。」
「にゃんは・・・あにょよにいくの?」
「そうだな、もう船に乗る頃かもしれねぇな。」
「にゃんは、どうすりゅの?」
「埋めてやろう。中庭の桜の下に。そしたら毎年綺麗な桜を見れるだろ。」
「あい、ちづるおはかつくりゅよ。」
「一緒に、埋めような。」
中庭の桜の下に、左之と烝に手伝って貰いながら子猫を埋めた。小さな手を泥だらけにしながら土を掻く間、千鶴は泣かなかった。
唇を噛み締め、零れそうな程瞳に涙を溜めながら、それでも涙は零さなかった。
墓の上に石を置き花を添え手を合わせ、じっと墓を見つめながら肩を震わせても泣かない千鶴は、見ていて痛々しい程だった。
「千鶴君、辛いなら泣いてもいいんだぞ?」
「ちるる・・・なかにゃい・・・にゃんのふね、ころんするからなかにゃい。」
優しい優しい幼子は、子猫の船が三途の川を渡るまで堪えるつもりのようだった。
その姿に胸を締め付けられるが、必死に耐える姿はどこか大人びて見えて、烝はそれ以上何も言えなくなってしまう。
けれど左之は違った。ぐいっと千鶴を引き寄せると、小さな体を大きな胸に抱きすくめてぽんぽんっと背中を叩いた。
「あのな、三途の川を渡るには、川に水がいるんだ。その水は、誰かの涙だって、俺言わなかったか?」
「ちるる・・・いっぱいないたら、にゃんのふね、ころんしゅるよ。」
「だ〜いじょうぶだ。お前一人分の涙くれぇじゃぁ、ひっくり返ったりしねぇよ。俺は泣けねぇから、お前が泣いてやれ。
そんで、一晩だけ泣いたら、明日は笑ってやれ。きっとあの猫はお前が好きだったから。
最期まで抱き締めてくれてたお前が好きだったと思うから。明日になったら笑ってやれ。・・・なぁ?千鶴。」
「あい・・・ちるるは、あしたはわらうよ、あしたはずっとわらう。だか・・・だからっ・・・ちるる・・・にゃいていい?」
「ああ、いい。我慢しなくて、いいぜ?」
「ふぅ・・・・・うぅっわぁ〜〜〜〜ん!ふぇ〜〜〜!!」
ずっと堪えていたのだろう涙は、堰を切ったように溢れ出し止まる事を知らないように大粒となって後から後から流れていく。
屯所中に響く千鶴の泣き声は、誰も聞いた事のない程悲痛なモノで、一晩中続くそれに、誰もが訪れては去り訪れては去り、
最後に土方が泣き続ける千鶴の背を撫でた。土方は一頻り背を撫でた後、左之に目を向けると、何も言わずに頷いて出て行った。
左之は小さな背中をずっと優しくあやすように叩き続け、月が中天を過ぎた頃、泣き疲れ眠った千鶴を布団に横たえた。
「左乃助・・・。」
「土方さんか。千鶴、寝たぜ。」
「そうか・・・。悪かったな。」
「いや、構わねぇ。けど・・・遣る瀬無ぇやな。」
「いつか・・・俺達があいつをあんな風に泣かす羽目になるかもな・・・。」
「ああ、かもしれねぇ。・・・けど、それは今じゃねぇだろ?」
「当たり前ぇだ。俺達はまだまだやらなきゃならねぇ事が腐る程あるんだ。
まだ・・・こいつを、泣かせる訳には、いかねぇよ。」
「そうだな、俺達には千鶴がまだ必要だしな。」
「ったく、どっちがガキか判りゃしねぇ。」
「お互い様だろ?」
「全くだ。」
真っ赤に泣き腫らした瞼を、今は静かに閉じる愛しい幼子。
それを見守るいくつもの優しい瞳。
願うなら、どうか夢の中では泣かないで。
明日にはいつもの笑顔を見せて欲しい。
人斬りと呼ばれ、忌み嫌われる自分達の救いとも言える存在。
彼女の笑顔を守りたい、そんな小さな願いを星に祈りながら、屯所の夜は更けて行った。





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